04


とにかく、この美少年についての情報が少なすぎる。
朔名のいったとおりにしたほうが良さそうだ。


まあ8割方この沈黙をどうにかしたいってのが本音だけども。



「あ、あのさ……貴方の名前は何?」

「………名前……」


クロワッサンを食べている手をとめ、何故か考え込むかのように少し俯いた。

どうしたんだろう。






「…………かのん」

「……え?」

「“翔”ぶに“音”で翔音(カノン)」

「か……のん……」




正直にいっていいかな。
おっ……女の子っぽい!!
名前がすごく可愛い。
顔も女顔だし、絶対にそこらへんの女の子より可愛いよこの美少年。

こんなこといったら捻り潰されそうだからいえないけど。



あ、そうだ。まだ自分たちのこといってなかった。



「翔音くんね、わかった。私は芹菜、藍咲芹菜っていうの。で、こっちが兄の朔名」



自分の名前ついでに朔名の名前も紹介したが、美少年―――翔音くんは食べるのを再開していて聞いてるのかわからなかった。




なんか私独り言いってるみたいで寂しいんですけど。


私の心情を察知したのか、後ろで朔名が笑いを堪えてたのをみてちょっとイラッとした。





あーどうしよう、また会話が止まってしまった。
翔音くんは無口なのかな。
知らない人がいて緊張してるってのもあるけど、開口一番のアレではそんなの微塵も感じられなかった。
きっと前者だろうな。


(朔名ー、私を助けて)


私は後ろにいる朔名に近づいてまた小声で話しかける。


(助けてって……)

(会話続かないんだもん、この空気どうにかしてぇ)

(んなこといわれてもなぁ)

(男でしょ?私のお兄ちゃんでしょ?……妹の頼み断る気かよ)

(何、最後の。完璧脅しじゃん、もう強制されてるよ俺)

(任せたよお兄ちゃん!!)

(………俺はもしかして芹菜の育てかたを間違えたか?)



ため息をついて翔音くんのもとへいく朔名。
なんだかんだいってちゃんと頼みを聞いてくれるからとっても助かっている。


口では女に勝てないってやつだよね。
そうじゃなくても朔名は押しに弱いところがあるんだけど。


何となく朔名の後ろ姿が不憫だ。





朔名は翔音くんが座っているソファの背もたれに腰かけるようにして話しかけた。


「あー……、翔音はさ、今歳いくつ?」

「…………18」

「……18!?」



質問した本人はものすごく驚いて声が裏返っていた。
多分私が質問したとしても同じ反応をしただろう。

まさか同い年だったとはね。
てっきりまだ15歳くらいかと思ってた。



「18歳か。翔音は4月生まれなのか?」

「ん」

「じゃあ芹菜と同い年か」

「……」

「……」

「……」




おーい、会話が止まってますよお兄さーん。

朔名の顔を見てみると、次何を聞くか迷っているみたいだ。
私は苦笑いした。
しかたない、また私がかわってあげよう。

私もソファへと向かい朔名の隣に立った。


「翔音くんはどこからきたの?」

「……」

「……随分と傷だらけだったから、どこかで不審者にでも会ったのかなーって思ってたんだけど……」



傷のことは少し言いづらかった。
自分の体にある傷のことを触れてほしくないって思う人もいるから。
でも目の前の彼はきょとんとした顔をしていた(といっても、そう見えただけで実際は目をぱちくりさせていただけだが)。



「日本のどっか」

「………いやそういう意味で聞いたんじゃなくてですね」

「わからないから、別にどうでもいい」

「えええ」


翔音くんはそれ以上は何も話さなかった。
“わからない”って、まさか記憶喪失?
にしては随分能天気な。




今日はいろいろと疲れた1日だった。
わかったことといえば、翔音くんは無口で少し変わっているってことくらいかな。



04.謎が多い君

(あ、)
(クロワッサン全部食べやがったな)


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