(アストロトレイン×ブリッツウィング) 



友と呼びあう違和感を解消するために、相棒と名付けた。ブリッツウィングとアストロトレイン。トリプルチェンジャーの参謀格。好意を持ってつるむのではなく、お互い打算的であるから上手くいく。結局、誰だって可愛いのは己自身であり、それを理解しない奴こそが悪だ。そうしていれば自ずと、誰かの敵になれる。この感情を共有するのが相棒だ。魂を分け与えたかもしれない相手、共に死ねたならと望んでもいい唯一の他人。そんな認識をしている。
だからこそ、またそれを共有するのも当たり前だった。
ブリッツウィングは引きちぎられた指の先の向こうの、嫌に静かなアストロトレインの背中を見ていた。輸送任務から帰還し、隠し持っていた激情のほんの一部をさらけだした後、眠りについてしまった相棒とは言葉も交わしていない。短くなった指では手遊びもままならず、その歪んだ欠片を投げつけると、ようやく巨体が動く。
「よう、起きたか。気分はどうだ、相棒」
「最悪だ。起きぬけ一番にテメェの顔じゃあな」
「俺の顔の何が不満だよ。お前こそ酷い面してんぞ」
「うるせえ奴だな。死ね」
「そう言うならさっきヤった時に抱き殺しておいてくれりゃよかったのになぁ」
へらっと笑えば、アストロトレインが億劫そうに上体を起こして、ブリッツウィングの肩を乱暴に掴んだ。押し倒す勢いが余って二人はスラブから落下し、「不愉快だ」と呟いた唇が「俺もだよ」と言った唇を噛む。重たい舌が濡れているというだけで腰のあたりをくすぐられる。意味はないがジョークにもならないキスを終えて、アストロトレインは膝をついて立ち上がった。
「本当に殺すぞ、クソ」
「殺せよ。なんだよ、ビビってんの?」
挑発してブリッツウィングは太い足に絡みついた。苛立った真紅のオプティックがさらに充血して輝く様は美しいと思う。そうしてそこまでの衝動をあえて抑えているアストロトレインを滑稽に思い、疲れたように腰をおろしたのを見計らって膝に頬を擦りつけた。
「なあ、物足りないんだろ。俺を殺してみろよ、アストロトレイン。きっと気持ちいいぜ」
「死にたきゃ勝手に死ねよ」
「そりゃ無理だ。お前以外に殺される俺なんか嫌いだろ」
「意味がわかんねぇ。いい加減黙ってろ」
アストロトレインは鼻で笑い飛ばすとこれ以上話すのを拒否して足を振り払い、ブリッツウィングはやられたフリをして床に寝ころんだ。近すぎることもない暗い窮屈な天井に、エンジンが静かに唸ったように感じる。ひらりと広大な宇宙の星の煌めきを掴むように歪な手をかざし、握っては開いてを無意味に繰り返した。
「お前に殺されるのは、どんな気分だろうな」
それを知る数多のスパークを羨みながら、アストロトレインが答えないことを承知で呟く。ブリッツウィングはバイザー下の瞳をぐるりと回し、溜息をついた。死角になった表情がどう動いていたのか、分かるはずもなかった。ただ、心底下らないと思われていることだけは気配で察する。
「もうサイバトロンじゃ物足りねぇだろ。お前のそれは、たとえメガトロン様を殺しても満たされないもんだ」
「………」
「だから最後には、俺を殺してくれよ」
「次から次へと、よくもまあ思いつくもんだな」
「お前のことを愛しちゃってるからね」
まるで照れ隠しのように顔を軽く蹴飛ばされ、横を向くと指が落ちていた。拾い上げて口に含むと微かに、アストロトレインの温度が残っている気さえする。奥歯で噛み砕いて、噎せそうになりながらも飲みこんで、銃さえ握ることの出来ない手をまた見つめた。人差し指を砲身に見立てて発砲音を口にし、それから一つだけ暗示をかける。
「なあ、相棒。俺もお前を殺したいんだ。だから安心して帰ってこいよ。いつか俺がお前を殺すまで、ずっとさ」
小さな軋音でアストロトレインの欲望が知れると、ブリッツウィングは笑みを殺しきれずに吹きだしていた。


あまりにも近い破裂音に、頭が吹き飛んだと錯覚した。けれど2つのオプティックは銃を構えた相棒の姿を捉えて離さず、歪んだ笑みが遠のいていくのに声も出ない。手のひらから落ちた武骨な誰かの頭部を蹴り飛ばし、遅れてよろめく。ブリッツウィングは唇を戦慄かせて、はあ、と艶めいた息を溢した。死んだかもしれない、殺されていたかもしれない、そんなゾッとしない快感を覚えていた。



150727
疾楓さまリクエストありがとうございました。
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