(皆本×夢前+笹山×夢前)R18/現代パロ/年齢操作



金吾が頬を腫らして帰ってきた。
「どうしたの、それ」
「殴られた」
短く金吾が答える。僕はやりかけのゲームを電源ごと落として冷蔵庫に向かう。氷嚢代わりに手近なビニールに氷と水を入れ渡しても、金吾は不機嫌なままバッグを放り投げて座椅子に沈んだ。そこは兵太夫の席だよ、とは言えない雰囲気だ。
「誰に殴られたって?」
「…元カノ。別れようって言ったら殴られた」
「すごい力だねぇ、そんなに腫れたの七松先輩のとき以来じゃない?」
「三治郎も痛いの嫌なら離れてた方がいいよ」
「はいはい」
僕は素直に離れたところに座った。すぐに暴力をふるうような男じゃないのは知っているけれど、金吾が言うなら仕方ない。横目で伺うその表情は怖いくらい穏やかで、それこそ七松先輩に殴られたときと一致した。何も見ていない、諦めの顔だ。
「で、どうしたのさ」
「妊娠、したって言うから」
「え?ええと…その子が?金吾の子を?」
「最後にしたとき、付けてなかった」
「なんで?」
「つけろなんて言われなかった」
まるで自分は悪くないとでも言うようだ。呆れてものも言えない。金吾は、彼女のための時間をつくるのが面倒になったから別れようとしたと話してくれた。彼女も自分に付き合わせるのは悪い、だから切り出したら子供の話をされて、既に4カ月だとか言われて、テンパって無理と言ったら殴られ彼女は走って逃げた。ということらしい。
「そりゃあ、金吾が悪いんじゃないかな」
「どうして?」
本気でわかっていないような顔をされるとこっちが困る。そんなのは常識、一般論だ。その気もないのに新しい命を生み出すことは、罪なのだ。
「避妊しなかったのが彼女のせいにしても、今までその可能性を孕んでいたのは金吾なんだから…それは男の責任、ていうかさ」
責任という言葉が癇に障ったのか、金吾は膝を抱えた。都合が悪いときや落ち着かないときの癖だ。まだ泣き虫だった頃の面影はあるのにどこで間違えたのか時々不思議に思う。
僕は慎重に言葉を選び直そうとして、やめた。どんな言葉で慰めてやろうが金吾の過ちは消えないし、彼女の悲しみも癒えるわけでもない。何よりも僕の損得には影響なく、突き放した言い方をしてしまえば、この一件はこの上なく僕にとってどうでもいい 。
「……どうするの?」
「メールで…産むことだけは許せってさ」
金吾が選んだ人だけあって強く、愚かな人だ。
「僕は父親に成れない」
体に力が入る。無責任だとは思うけど、同時に少し羨んだ。悩むことも悲観することもやめてしまうと、人間くさい金吾は良くも悪くも光って見える。傍に置いておくには丁度いいくらいには。
「楽でいいじゃない」
僕は這って金吾の後ろに回った。そして広い背中を抱き締める。体を密着させて、体温を共有するようにあやしてやる。
「金吾が縛られたくないならそれでいいよ」
「三治郎」
「いいよ、僕が愛してあげる。君を縛らないまま、僕は金吾を愛せるよ」
甘く囁くだけで、脆い男が振り返った。

数ヶ月前まで物置だった、なんとなく埃っぽい金吾の部屋で僕は貪られる。汗の臭いが染み込んだ薄い布団に裸で放られて足を開いて、貫かれながら抱き合うために体を丸く縮めた。
「あん、あっあっ…はあ……あんんっ、んくっ……ん」
「気持ちい?ここ、ねえ」
「ふはっ、あっああっ金吾、あんっや、あ…っ」
ただの肉筒になってしまえば、急に泣き出した金吾を見なかったことにできた。背中に爪を立てて、ぐつんぐつんと揺れて頭がぐちゃぐちゃになる。僕は快感でだらしなく声をあげていた。
「金吾ぉ、あんっ奥ぅ奥やだっあっあっやだあ!」
「さんじろ、三治郎、ここ、いいの?こう?」
「ひぃっ…!んぁ、あああッ奥きてるよう…っ、あっあうううっ」
一緒にイって初めて深いキスをされる。殴られたときに歯で切った傷口が開いて、金吾とのキスは血の味がした。舌で探り当ててやったら、逃げられた。僕は腫れた頬にも触れてみる。とにかく妙に熱くてドキドキした。
「三治郎、好きって言って」
「……好きだよ」
「うん」
「金吾が、好きだよ」
笑う余裕もなく、僕は金吾に抱きつく。そうして彼の腕の傷痕を何度も撫でた。金吾がそれに気付いて泣きだしてもやめないでいるとゆらゆらと再び、悲しみを紛らわせるように動かされた。
「三治郎、ごめん」
謝るべきなのは僕のほうなのに、そんな風に謝らせてしまってごめん。何も言えなくなった僕は金吾の色の変わった肌に爪を立てながらもう一度好きだと言って、お互いが疲れて眠ってしまうまで熱を分かち合った。

剣道が好きで、泣き虫のくせに意地っ張りで努力家だった金吾が、車にはね飛ばされる瞬間を見ていたのは僕らだった。兵太夫は咄嗟のことで頭がついていかずに思わず笑い出していたけれど、僕は空を舞った金吾の血液に何もできなかった。呼吸も忘れて、それから金吾が徐々に腐っていく様も、ただ作った笑顔で傍観した。笑うのは簡単だった。でも、優しい人のように誰かのためには泣けなかった。1人、どこまでも清々しくて金吾を叱ったのは七松先輩だけだった。

あの鮮やかな記憶を抱えながら僕はクズ野郎のまま、朝を迎える。帰らないはずの兵太夫の足音を遠く聞いて、隣にいない金吾に、見慣れた自室に安堵のため息をつく。酷くだるいけれど、清潔ならばいい。
「まあ、すぐバレるんだろうけど」
ダンダンダンッと廊下がうるさい。僕は布団をかぶり直して、乱暴に開かれたドアに体を丸める。
「三治郎起きてる?ただいま」
「おかえり兵太夫」
「具合悪いの?」
「そんなことないよ」
潜ったまま歯を食いしばる。ぎゅっと目を閉じて、予想通りに肩にぶつかった拳に僕は安堵する。兵太夫が怒ってくれるのがうれしいのだ、僕は。だからじっと痛みに耐えた。力が緩んで布団を剥がされた後は直に殴られて、蹴られる。まともに腹に食らっていまさらこみ上げてきた尿意が憎い。
「…ごめんね、兵太夫」
「謝るなよ」
バチンと目の前に星が飛ぶ。頬が痺れるように熱くなって、血の味がした。兵太夫は自分の拳が痛くなるほど僕をいたぶって、まだ怒りを孕んだ顔をしてカーテンを開け放つ。眩しい白い光に包まれた兵太夫は、嘘のようにきれいな満面の笑顔をくれる。
「おはよう三治郎」
「うん、おはよう…兵太夫」
「愛してるよ」
「僕も君だけを愛してるよ」
優しい両手が首にかかって、温かさに僕は二度寝を決め込んだ。



130612 題:花洩
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