(尾浜×不破)現代パロ/年齢操作



体に、その人を刻み込む。
そんな言葉を目にしたのは図書館で目に止まった恋愛小説の中だった。身分の差から結ばれなかった二人が思い出にと一夜を過ごすシーン。十数年前に映像化されていたのを知り、暇潰し程度にネットで探して見たこともある。当時スキャンダルに塗れた大女優のヒロインと、上映直後に自殺した俳優の半狂乱のセックス。蛇が絡み合っているような濃厚なベッドシーンは、今でもよく覚えている。
「で、抜けたの?」
「抜けなかった。勃起はしたけど、出したら、失礼な気がして」
「へえ、その頃はインポじゃなかったんだ」
「まあね。高校の時の話だから。ていうか僕がこうなったの、誰のせいか忘れたの」
ベッドで全裸のまま笑う勘右衛門は「俺のせいだったね」と悪びれもなく答えた。それが憎らしくて僕は勘右衛門の腹の傷を辿った。背中から腹へ突き出た刃物が、僕のトラウマでありEDの原因だ。
「雷蔵、そこ好きだね」
「バカ言うな……大嫌いだよ」
すっかり塞がっている色の違うそこに爪を立てる。僕らが再会した大学二年生の頃はなかったものだ。もしあの時に気付かなかったら、こんな醜い後は残らなかったのだろうか。いや、どちらにせよ下半身のだらしない男だ、時間の問題で僕のせいではない。EDになった僕はといえば、巻き込まれただけの、単なる被害者に過ぎない。
「くすぐったいよ」
「嘘つけ。感じないくせに」
「雷蔵の手は特別。むずむずしちゃう」
「勃ちそう?」
「もーさっきので打ち止め、疲れたし」
この通りだ。たった一回のセックスで足りるような男ではない。帰宅ついでに持ち帰ってきた女の前にも、どこかでひっかけてきたに違いない。僕を抱けないから、勘右衛門は代わりの女を抱いて性欲を満たしている。同じ屋根の下に住んでいたって使えなければ意味がないのは理解している。
「それは残念。たまには口くらい貸してやったのに」
「ええええウソどうしたの雷蔵さん明日お願いします!」
「ダメ」
「雷蔵ぉ〜〜」
どうせ嘘なのだけど、たまには喜ばせてやらなければならない。僕は勘右衛門を愛しているかとか好きなのかと問われたら、たぶん悩むこともなくいいえと答える。けれどこの生活を終わらせるかと迫られたら、保留に保留して死ぬまで悩みそうなのだ。
「勘右衛門、僕のこと好き?」
「ちょー好き。雷蔵は?」
「嫌いじゃないね」
「はは。いつもそれだ」
勘右衛門が僕の腰に絡みつき、片手で太股を撫でてくる。内側のこそばゆいところを大事そうに。薄い布の下にある、名前を辿ってる。文字通り僕のそこには勘右衛門の名前が彫ってある。こんな関係を初めて間もなくに、僕がEDになった後に勘右衛門が無理矢理いれたものだ。別の意味で、この男を体に刻み込まれた僕は逃げられない。
「今日の雷蔵はかわいいね」
「も、の間違い」
くすっと笑ってごめんのキスは手で制した。知らない女と睦みあった口も、どこかに突っ込んでいた手も嫌だった。こんなに気の回らない男がどうしてモテるのか謎だが、そんな奴に惚れている僕もバカだ。
「勘右衛門が死なない限りは好きでいてあげる」
「死んだら嫌われるのかあ、悲しいね」
勘右衛門がおかしそうに言って唇に触れるかわりに、そっと自分の名前に爪を立てた。
「ねえ雷蔵、なんであんな話したの?」
「さあね」
僕は目を閉じて、かの大女優の死を悼んだ。
すると共にあの日のことがよみがえってきた。髪を振り乱す女と、勘右衛門を貫いた刃物の光。血まみれで、それでも終わらなかったセックスの中で見た狂った笑い顔。それから死んでしまった僕の男の機能。なにもかもが、なければよかった。
いつかの酒の席で僕が言ったことを勘右衛門は忘れたのだろう。同じ話をしたから、僕の太ももに消えない黒い文字がある。今日は、お前のものになってから一年目の記念日。そして母の命日だった。



加筆150210 (130430)
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