(スモークスクリーン→ラチェット)擬人化/現パロ



「なんかさ、気になるひとが出来たんだよね」と言ったら「よかったじゃん」と返された。どんなひと?ってもちろん聞かれた。当然女だって思うだろう、年上?年下?かわいい系?美人系?髪は長い?短い?おっぱいの大きさは?なんてことを聞かれる。悪いけれど、俺は年上かなとだけ曖昧に応えた。だって知らないのだ。あのひとのなんもかんも。だって単なる隣人の、おじさんだもの。

「やあ、こんにちは」「こんにちは」と柔和な笑みで挨拶を交わすくらいの関係だ。引っ越してばかりのときに「困ったことがあったらなんでも聞いてくれ」とか言われて、たまに趣味の悪い日本かぶれの外国人が好きそうな珍妙なグッズや、怪しい名前のお菓子をもらったことはあったっけ。
名前はラチェット。初めて見た時は白い髪がなんだか老けて見えたけど、若い。年より扱いをすると怒るのに、すぐに自分をおじさんだと言う。外に出るときはだいたいかっちりとした格好。でも配達ミスされた荷物を届けに行ったり、実家から届いたりしたものをおすそ分けに行ったり、理由をこじつけて会いにいくと、だいたい着古したよれよれの服ばっかりだった。「こんな格好ですまないね」って恥ずかしがる。白いほっぺたが少しピンクに染まっていた。
職業はお医者さんだ。洗濯ものに見慣れない白衣がさがっているのを見た。それになんだか薬品くさい日がある。病院は好きになれなくても、あのひとの匂いだと思うと好きになるかもしれない。欲をいうなら診てほしい。服を脱がされてみたい、触ってもらいたい。でも心臓の音を聞かれるのはちょっとだけ怖い。すっごく早くて、「緊張しなくていいから」なんて笑われたら嫌だ。
俺は最近、あのひととお医者さんごっこの淫夢を見ている。

ところで、俺はこの恋が叶わないことを知っている。そのことを友人に話したら人妻?とか不倫?とか言われた。面倒くさいのでまあそんなもの、と言っておいた。
あのひとには恐らく好きなひとがいる。俺と同じ、叶わない恋をしているらしい。
何度か、聞いた。壁が特別薄いというわけでもないが、集合住宅ならあることだろう。その日はたまたま、窓が開いていた。俺にあてつけるみたいに、甘くて切ない声でそのひとを呼んで、きっとチンコを擦ってた。あのひとは、お尻もいじるんだろうか。そうだったら、たまらなくて、俺はオナホを相手に腰を振ってしまった。めちゃくちゃ虚しかったけれど、興奮してとにかく気持ち良かった。それでも終わって、息が整う前にそのひとを呼びながら泣く声を聞くのが虚しくて、止めてみようかと思って止められなかった。
俺のことを「スモークスクリーン」とわざわざ長ったらしく呼ぶあのひとの声。友人のほとんどはスモーキーですませているから、あのひとに呼ばれるのは少しだけ特別だった。あのひとが呼ぶ名前を勝手に覚えた。尋ねてくる男たちのどれだけが俺と同じ思いを抱えているんだろう。バルクヘッド、バンブルビー、ホイルジャック。この三つが、最近多かった。違う。あの名前じゃない。俺はまだ、そのひとに会っていない。

けれど、その日はやってくる。俺の好きなひと、の好きなひと、を知る日はやってきた。
玄関先で嬉しそうに呼んだんだ。誰に向けるよりも弾んだ声で、おじさんがなにをはしゃいでるんだってくらい、とっておきの可愛らしい音だった。ああ胸が痛いなとか思って、その顔を見るために俺は平常心を装い外に出る。
「スモークスクリーン、いたのか」
「おや、すまない。うるさかったかな」
「いえ……丁度出るとこだったんで、お構いなく」
はっきり言っていい男なのだ、これが。背が高くて、もう何もかもかっこいい。
「なにラチェット、今日はかっこいいお客さんじゃん。俺にも紹介してよ」
「こっちはオプティマス・プライム。私の古い友人でね」
「はじめまして、いつもラチェットが」
ここから先は思い出したくもないので以下略。旦那様ぶった挨拶だった。そのくせデキてないんだっていうんだから、嫌味な話じゃないか。その後の俺は出任せに従い家を出た。財布も携帯ももっちゃいない。面倒くさくて鍵もかけ忘れた。振り向かずに行こうと思ったけど、そうともいかず見てしまったのは、扉の向こうに消える前、オプティマスの手がラチェットの肩に触れたところだった。
今晩は、オプティマス、とあの声で呼びながらあの広い胸におさまって、濡れるのかな。どんな格好で恥ずかしいと泣くのかな。好きって言うのかな。逆に、言われちゃって、また泣いたりすんのかな。
そんなことを、俺は考えるしかなかった。



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