(サウンドウェーブ×メガトロン) 



メガトロンの不在。それは両軍に波紋を投じた。デストロンは規模の小さい作戦を順繰りに実行し確実にエネルギーを奪いながらも、大事のために警戒を強めたサイバトロンとの戦闘で負傷しては逃げ返る日々が続き、基地内ではスタースクリームを筆頭にその不満を声高に訴える者が出始めた。誰にもその真意は明かされず、メガトロンは連日サウンドウェーブが設けた一室に匿われたまま姿を見せることはない。唯一接触が可能なサウンドウェーブも直属のコンドルを除いたカセットロンの外部での活動を禁じるほどの徹底ぶりを見せ、扉一枚隔てた先が底知れぬ闇を抱えているように思われた。
やがて死亡説すら噂され、鎮静化を図り新たな策を講じる準備に取り掛かっていたサウンドウェーブは、ぎくりとコンソールを叩く指を止めた。下半身の違和感に俯くと、影が笑う。力なく点滅するオプティックに背後を振りかえればリペア台に横たわる機体が消えていた。無意識的に聞こえていなかったフレンジーとランブルの慌てた声に耳を傾ける。
「…俺のミスだ、すまない。もう休め」
銀色の体に縋りつく小さな体を胸に収め、サウンドウェーブは排気する。絶対的な主君の哀れな姿を見せるつもりはなかった。カセットロンにはモニターの監視と情報収集のほんの雑用を、全てメガトロンが眠っているうちにのみ任せていたはずだ。メガトロンが目覚めることが計算外であったわけでもなく、サウンドウェーブは己の失態を認め足の間に割り込もうとする頭にそっと手を置いた。緩く上向いた呆けた表情に、努めて穏やかな声をかける。
「メガトロン、どうした」
「サウンドウェーブ」
「ああ、わかっている」
サウンドウェーブがメガトロンに向き直る。望まれるままに足を開き迎え入れ、萎えた状態のコネクタを前にメガトロンが微笑むと不快感に目を逸らした。鮮やかな赤色の垂れさがる舌が表面の細い溝を辿り、口内で分泌された多量の滑剤で濡れていく。視覚的な嫌悪はあれどサウンドウェーブの処理能力に長けた機体は否応なく昂り、メガトロンを満足させた。
「もういいだろう。…立てるか?」
コネクタから離れ糸をひいた口元をだらしなく緩ませたまま、メガトロンは頷いたが、その足に力を込めている様子もない。サウンドウェーブは立ち上がり弛緩した機体に手をかけ、抱き上げようとして肩に絡んだ手に動きを止める。リペア台に戻されれば再び眠らされることを予感し拒否しているのだ。
「このまま、と言っているのか」
がくがくとバケツ頭が頷く。サウンドウェーブが心惹かれた頭脳はもうそこにない。先の戦闘か、未知のウイルスか。原因の究明に突破口は見られない。他に、例えば母星で待つ忠臣の手を借りることも視野に入れていたはずだが、いつからかそのことも忘れている。壊れていくのはメガトロンだけではない。自覚すればするほどに目が霞んでいく。
「メガトロン」
「すべてお前が望んだことだ」
「違う」
「愛しているぞ、サウンドウェーブ」
これ以上この妖艶な笑みに騙されてなるものかと、抗いながらまたこの体を抱く絶望に緩む頬はマスクで隠した。



140730 題:花洩
[ back ]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -