(ホーンボンバーとライオボンバー) 



いつか死ぬ時がくるのだとホーンボンバーが言った。
ブラック・ノワールとの決戦後の修復から数十年と経ち、立案者の父から意思を託された隊長たる旋風寺舞人も天寿を全うしたが、悪の根絶はなく勇者特急隊計画は未だに完結されることはなかった。時の流れに合わせて世界もまた変わっていく。枯渇した化石燃料の代替燃料の開発や、人口の爆発的増加により様変わりした都市。舞人が総帥を務めた旋風寺コンツェルン全盛期を懐かしく思い、彼の名を冠したマイトステーションでライオボンバーはホーンボンバーの言葉に首を傾げた。
「そりゃあ、またなんで」
「目逸らすなよ、お前だって薄々気づいてるんだろうが」
ライオボンバーはああ、と応え、壁を埋め尽くさんばかりのパネルを見つめる。何をするにもコンピュータ頼りの世の中で、ある日突然に舞人が見つけたという古いカメラで撮ったデータが映し出されている。初めての記念写真を見つめていると、ホーンボンバーが肩に頭を寄せて、小さく彼の名前を呼ぶ。当時の全てが鮮やかに思い出されることに、いつの間にか胸が痛むということを知ったことは嬉しくもあり、今となっては酷く悲しかった。

サリーの妊娠が発覚する少し前のことだ、黒く重たそうなそれを持って舞人が皆を呼び付けた。表の仕事に追われ忙しくしていた舞人の久しぶりの華やかな笑顔に、特急隊だけでなく青戸工場に居合わせた全員で口々に彼の名を呼んだ。撮影者は青木が名乗り出たが、浜田がセルフタイマーを設定して、シャッターがきられる瞬間になって祖父の裕次郎が舞人とサリーのキスを囃したて、2人が妙に赤らんだ顔をして俯いてしまったのが、1枚目。気を取り直して、2枚目。特急隊と舞人だけで、3枚目。それからフィルムが終わるまで、思い出を切り取った。
「舞人、またどうして写真なんか」と初めに聞いたのはガインだった。その隣にはヘッドパーツとカラーリングの違う、黒い弟が物珍しそうに小さな手の中のカメラを注視する。
「何かを残しておくっていうのは人間にとってとても大切だからね。君たちみたいに超AIで半永久的に保存できるわけじゃないから、こういうのは、とても尊いんだ」
「では舞人、今度は私とガインを撮ってくれ」
「もちろん。さあ並んで」
「舞人、私たちもお願いします」
別れを知るガインとブラックガイン、命を救うことに長けたダイバーズ、誰よりも戦い守ることに尽力したボンバーズ。それからマイトガンナーの胸のマズルを指さして、レンズと似ていると言った浜田が遠近法を利用してつくった写真。
何もかもが遠く、心を揺さぶり続けている。

「……全部、覚えてるってのも、つまんねえよな」
ライオボンバーは頭を掻き、それから舞人とサリーの子が生まれ、間もなくして裕次郎と青木が先だったことまで思い出した。
「なんだ、嫌なことでも思い出したのか」
「別に。お前は、なんか嫌なこととかあるんじゃねえの」
そうだなあ、とホーンボンバーは言葉を切ってまた一枚、ずっと古い画像を見つけた。映っているのは、舞人と青木、いずみ、大阪工場長と、特急モードのプロトタイプ。完成し、超AIを搭載された後に感動した皆が涙ぐむようにして見上げてきたことを、覚えている。それから再び眠りについて、己の体が新たに三段変形できることに喜び、舞人の力になって本物のヒーローというものを知った。戦い、敗北し、未来へ進んで、現在に至った。
「ねえな」
「嘘くせえよ」
わずかな間の静寂は、笑い飛ばされた。
「なあ、やまびこ」
「おっそれ懐かしいな、ひかり」
生まれた頃につけられたその名は、昔実在した列車からとったと舞人がくれた大事な名前だった。優しい音のする、初めての証を誰が蔑ろにできるというのだろう。
以前に比べ線路は減り、住宅地が増え、移動手段と言えば車が主流になってしまったことで、出動はもちろんのことパトロールに出ることさえも減ってしまった。けれどそれは平和の証だ。あの時に命を懸けてよかったという未来に、生き続けている。
『ライオボンバー、ホーンボンバー、そこにいるのか?』
点灯したモニターにガインの姿が映る。
「おうガイン。何かあったのか」
『至急、青戸の工場へ向かってくれ』
「了解」
簡潔な声に感情がなかったことに気付いたのはホーンボンバーだったが、先に「決まっちまったなあ」と呆れた声を出したのはライオボンバーだった。
「いつか、どころじゃねえ。早いもんだ」
「ライオボンバー」
「なんだよ」
「死にたくないとは、思わないか」
「思っててもどうしようもねえ。それにまあ、完全ってわけじゃねえ、人間で言う仮死状態だ。経験はあるんだ、怖いとも思わないように俺たちは……できてたんだ」
人の手で作られた心が、まるで同様に成長する、その残酷さを誰もが気付かなかったわけではない。けれど求められるのは従順な手足であり友のような存在。血も肉も骨も持たないロボットが所詮は道具なのだと誰かが笑ったところで、怒るその特別な人は、もういない。
「行くぞ、総帥様がお待ちだろうぜ」
「機嫌を損ねちゃあいけねえからな、まったく」
同時に変形し、最期まで想ってくれた若き日の彼を思い出して、2人はゆっくりと走りだした。



140506
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