(サウンドウェーブ×ノイズメイズ)
ノイズメイズは考える。今しがたの情事の名残もない簡素な寝台の上、寝がえりをうつには適していない迫り出した胸部の尖端をぼんやりと見つめ、繰り返し虚しく排気して気を許せば引きずられそうな腹の底の怒りのような熱を殺しながら考える。物足りない。そう思うは自分だけなのだろうかと、早々に立ち去ったサウンドウェーブに思いを馳せて。千切れた接続ケーブルを手繰り寄せ握ると、ノイズメイズはあまりに頼りないそれにまた排気して足をぶらぶらと揺らした。一般的なパルスの交換、それで快感を得るには十分だ。だがそれだけでは物足りなくなりつつある。
サウンドウェーブとの行為は実に事務的だ。手際もよく、無駄もなくあっと言う間にオーガズムに達する。ノイズメイズが思うに、その間同じく快楽を共有しているはずのサウンドウェーブが何の感情に触れないことを悟ったのは、事の始まりの何も語らない様子から知れたことだったはずだ。平時の冗談めいた睦みの一切を消し去って、自暴自棄とも違う無感動な、それこそ機械のような動作で、サウンドウェーブはノイズメイズとの繋がりを欲しがる。
例にもれず、翌日の誘いも当然、そうだ。もはやルーチンワークとでも呼んでやろうか。サウンドウェーブの手には相変わらずの接続ケーブルが握られている。あれを一番脳に近いジャックのある項に差し込めば、手っ取り早い。だが、痛みもなくごく自然に体になじむ微弱な電流のようなものでは足りない。ならば、体を繋げる方法として他にあるのではないかと訴えてやろうと意気込んでいたノイズメイズだが、腕を制する前に、フォーンプラグが差し込まれた。
「なあサウンドウェーブ」
「集中しろ」
冷えた声音にノイズメイズは押し黙る。はっきりとした拒絶を感じた。それに一抹の寂しさを覚えても、首の後ろがうっすらと熱を持ち始め、流れ込むやや変則的なパルスに体は反応するものだ。接続に用いられるケーブルは、サウンドウェーブに似たどこか懐かしさを感じさせるラジカセの付属品と変わらない。事実、どちらにも利用が可能だ。その程度。思えば、ノイズメイズは自嘲した。
「手ぐらい、握ってくれよ」
「私はこれ以上の干渉はしてやれない」
「ケチだな…」
怒ったような気配もなくただ快感が強くなり、ノイズメイズの手が空を掴む。せめて一方的にでも握ろうとした手は遠い。霞み始めた意識の中でサウンドウェーブの強制力を思い知らされた。圧倒的な支配を感じるだけでいい。生き残ってしまった、たった2人の世界で全てがコントロールされているのだから、死すらも決定するのはサウンドウェーブだ。
なんだ、とノイズメイズは再考する。満たされなければならないのはいつでも自分ではなかった。思い違いをしていることはない。珍しく痛みを伴った絶頂に全身を内側から解体されていく感覚を味わった後、ノイズメイズは脱力した。
140228
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