雨降れば棒に当たる 1/3



定時になれば必ず重い腰を上げ、退社する後ろ姿ばかりを見ていた。誰にもやっかまれ、新米の女子社員にすらお茶くみついでに馬鹿にされ、その人生にどんな価値があるというのだろう。三十も後半、独身、魅力のない男。それでいて決まって、酒の場では名前が浮上する人。
「アイツまた部長の誘い断ったんだって」
「あー、田端さんだろ?サラリーマンがそれでいいんかね」
「まあ俺も断りたい気持ちはわかるけどさ」
上司がいてもいなくても、今のように同期だけで飲んでも話題は同じ。人間、どうしても他人を貶めたがる。今日も田端さんは人気者だ。
「しかもあの人さ、いつも理由一緒なの」
「あの子があの子が、ってさ」
「ああ、棒付きの妹だろ?あの歳でシスコンとかもはや犯罪だよな。キモいだろ。なぁ、井上?お前さっきからだんまりだけどどしたん?」
「あ、いや…なんでもない」
不審がられるのを適当に流して残りわずかの焼酎を無理矢理飲み下す。スマホで時間を確認してそろそろ暇の準備をすると、向かいで赤ら顔の山田が察して騒ぎ出したが、さっさと1番楽な嘘を理由に店を出た。
白い息を吐きながら酔い覚ましに歩き、田端さんの選択は真っ当だと思う。俺だって本音では最低限の付き合いだってしたくない。人の悪口を言えば気分が悪いし、誰にも言ったことは無いが田端さんには恩義もあった。入社後のほんの些細な勇気を与えてくれた弱い人を、周りに習って貶すほど嫌な奴にもなりたくなかった。

翌日は待ちに待った休日だった。朝目覚めると、昨日の帰り際を思い出して笑ってしまう。妻と子供が、なんて愛妻家の嘘をもう半年も続けていた。家庭を蔑ろにしたバカ女は2歳の子供を連れて初恋の男とやらに逃げ、俺は腹立たしさに離婚届にまだ印をしないでいたが、そろそろ止め時だろうか。外出時に律儀につけていた指輪を手にとり、気軽にゴミ箱へシュートを決めてやった。

昼過ぎ、ずっと引きこもっているわけにもいかず買い出しに出た。気の重い冷たい雨が降り出して傘をさしながらカップラーメンの入った袋を揺らして歩く。すると、軒下のベンチに一人佇む髪の長い女性が気になり、足が向いた。
「あの、入っていきます?」
我ながら口をついて出た台詞にドン引きする。けれど彼女が持っていたのは傘ではなく歩行補助の杖だと気付いてしまったら、そう聞かずには居られなかった。彼女の方もナンパかと思ったのか一瞬きょとんとしたが、俺の言いたいことに気付くとぱっと目を輝かせてくれた。
「ありがとうございます。すぐ近所なので…そこまでで結構ですから。すみません、失礼しますね」
「いや、よければ自宅まで送りますよ」
「優しいんですね」
そうして立ち上がり並んで見ると、彼女の背の高さに驚かされた。ほっそりとした体だが、180近い俺とさほど変わらない。顔が近くて、ここで「どこかで会ったことあります?」などと言えばいくらなんでもベタ過ぎる。けれどどことない違和感があった。知っているような、知らないような。そんな俺に彼女は歩きながら答えをくれる。
「あの、井上さんですよね?私、田端の身内です」
「えっあ、もしかして田端さんの妹さん?」
「ええ、兄がいつもお世話になってます」
「そんなこちらこそ!お兄さんには会社でいつもお世話になってます。偶然てすごいですね…吃驚しました」
そういえば棒付きの妹と呼ばれていたのを思い出し、俺は納得した。彼女は改めて柊真と名乗り、俺のことは宴会の時の写真や田端さんから話を聞いて知っていたと言う。実際にお会いできて嬉しいなんて言われたら、浮かれてしまう。
柊真は田端さんと雰囲気こそ似ているが、言われなければ兄弟だとはわからない丁寧な顔の作りをしている。いわゆる美人に、高すぎない少しハスキーな声が似合っている。
聞けば、田端さんは折角の休日に風邪で寝込み、普段外出を控えている柊真が代わりに買い物に出ていたらしい。俺は暇を持て余していたこともあり、見舞いついでに寄ると言うと、喜ぶ無邪気な顔が可愛かった。

途中で見舞い用のカップアイスも買い足し、話しているうちにあっという間に兄弟が住むというマンションについた。一応先輩社員の自宅だと思うと多少の緊張はしたが上機嫌な柊真に腕を引かれ、寝ているようならば遠慮すると言った俺は無視され、田端さんの眠る寝室のドアが開く。
「ただいま兄さん。井上さんがお見舞いに来てくれたんだけれど、起きれそう?」
片足を庇いながら柊真がベッドへ近づいていくと、短い黒髪を覗かせていただけの田端さんがぎこちなく寝がえりをうった。顔の半分をマスクで隠した田端さんは、俺を見つけて明らかに動揺したくぐもった声を出す。より強調された頼りない目元が、挨拶をすると泳ぐ。
「雨宿りしてたら偶然出会って、声かけてくれたんだ」
「ぇ…あ、ああ…そう。井上くん、ありがとう。わ、わざわざごめんね、折角の…休みなのに」
「俺こそすみません、急におしかけて。コレ見舞いです。熱があるって聞いたので、冷たいものがいいかと思って。後で妹さんと食べて下さい」
田端さんは真っ赤な顔で汗をかいて苦しそうに喋った。昨日帰宅するまでは特に体調が悪そうなこともなかったが、休日に気が緩んだのだろうか。元からそのつもりもなかったが、長居は出来なさそうだ。俺はアイスを柊真に預け、帰ろうとしたが引きとめられる。
「そんな。せっかくですから、もっとゆっくりしていって下さい。雨足も強くなってきてるし…」
「でも…俺がいたらゆっくり休めないだろうし」
「柊真、い、井上くんが困ってるから…ッ」
軽く起き上がろうとした田端さんが急にビクンッと跳ね上がり、咳き込む。俺はそのまま吐くんじゃないかと、柊真にビニール袋だけを貰って駆け寄った。傍の俺を気遣ったのか声を殺すようにして、目をぎゅっと瞑って自分の体を抱きしめるような格好で、本当に辛そうだ。
「だ、大丈夫、大丈夫だかっ、ら…、ぅっ」
「吐きそうなら、使って下さい」
「すみません井上さん、ちょっと待ってて下さいね」
柊真はそう言うと壁に手をついて出ていってしまう。俺は田端さんのベッドの前に膝をつき、奇妙なモーター音に気付いた。しかしどこから鳴っているかも分からず、とにかく田端さんが心配で肩に触れる。
「ひっ、ゃ…!」
「す、すみません、嫌でしたか」
「ぅあっ…ぁ、ち、違、そうじゃなくて…、ぁ、うっうつって、井上く、にっ…風邪、が」
田端さんは涙目になって首を振った。飛び散るほどの汗をかいているのが可哀想で、俺は柊真を呼びに立ち上がる。すると丁度、風呂桶とタオルを持った柊真がひょこひょこと戻ってきた。
「兄さん、汗拭いて、着替えたらどう?今なら井上さんもいるし……あの、もしよければ、手伝ってくれませんか?」
「え?ああ、いいけど。田端さん、大丈夫ですか?」
「なっ…い、いいよ!井上くん、そんなことしなくていい!」
女の子一人で男の世話は大変だろうと俺は快く引き受けたが、田端さんはそう遠慮する。見舞いにきただけの年下の後輩にそこまでさせられないというには大袈裟で、俺は柊真から桶を受け取る。布団を頭まですっぽりと覆って子供みたいに拒絶されたが、柊真のことを考えれば当然だ。
「田端さん、遠慮しないでください。そのままもよくないと思いますし」
「ほら兄さん、こう言ってくれてるんだから。もう観念して、ほら!」
「やめッ、嫌だ!嫌だってば…!」
柊真が、バサッと勢いよく布団を剥ぐ。その瞬間、俺は何が起きていたのかよく、わからなかった。田端さんが小さな悲鳴をあげて、ボロボロと涙を流して見ないでと言う。
パジャマのズボンが下着ごと膝まで下げられ、丸出しになった尻からは尻尾が生えていた。紫色のヴィンヴィンと音立てるそれは、ペニスを模した性具だった。
「た、田端さん、あの、…?あ、えっと」
俺はすっかりパニックで田端さんどころか柊真のフォローも忘れて、固まった。頭ではすぐさまショックを受けただろう柊真を外に出して、大人の対応をしなければと思うのに動けない。その隣で、先に動いたのはにんまりと笑みを浮かべた柊真の方だった。彼女は、ベッドにゆったりと腰掛ける。
「あーあ、兄さん恥ずかしいね?ずっと片思いしてた後輩さんにこんなところ見られて、嫌われちゃったかな?」
「っう、あぁ…っ、あ、柊真ぁ…な、なんで、酷い、酷いじゃないか…、ぅ、うう」
「かわいい兄さん。僕の言うことちゃんと守ったんだ」
頭が、全く追いついてくれない。田端さんが尻にバイブを挿入していたことも俺のことを好きなことも、柊真が嬉しそうに僕と言って田端さんの裸の腰を撫でたことも、意味がわからない。
間抜けに立ち尽くす俺の前で、柊真が笑う。
「あはは、すごい顔。驚かせてごめんなさい。僕がいない間、寂しいっていうから…この子は僕の代わり」
当たり前のような顔をして田端さんからバイブを引き抜く。未だ動いたまま糸を引いている様が生々しくて、駄目だと分かりながらも目が離せない。ズボンを完全に脱がし膝を掴んでぐっと足を開かせると、カウパーでぬらぬら光るペニスが、射精寸前に震えていた。
「ちゃんと待て出来たから、ご褒美あげようね」
柊真は長い足を見せつけるようにロングスカートを捲りあげてベッドに乗り上げ、田端さんの足の間を陣取る。ストッキングに包まれた右足には大きな手術跡が透けて見えて、不思議な妖しさがあった。太ももを過ぎて水色のレース下着が現れ、そこは奇妙に膨らんでいる。彼女は、いや、彼が、いやらしい顔で露出させたのはピンと張り詰めた大きなペニスだ。
「ごめんね井上さん。僕のコレは趣味。兄さんのコレもね」
「あっ、やぁ…!や、やだっ柊真!さわ、ぁあッ触らないで…っ、う、井上く、見ないで…見ないでくださいぃ…!」
ペニスの裏側を細い指先でなぞりあげられて、田端さんは高い声をあげた。必死に体を隠そうとしても被さるように押さえつける柊真からは逃げられない。そして、腰を浮かされて尻の谷間を女性用下着から飛び出す柊真のペニスにつつかれる。
「ねえ井上さん、よく見ててね」
「あっ!あっ!嫌だ!柊真、ぁっ、ひ、ぃ…ーーッ、ぁ、ぁあああ…!」
次の瞬間、柊真がズンっと思いきり腰を進めて、体内を犯された田端さんはたまらず精液を放った。中をそのまま突かれるとびゅっびゅっと溜め込んだ白濁が溢れ出す。裸の下半身を痙攣させて掠れた咳をする姿に、体の奥からカーッと熱が上がった。
「ふふ…ふ、すご、ぃ、締まった……っ、ねえ兄さん、どうせ後で綺麗になるんだから井上さんにも参加してらおう?ほら言って?僕で気持ち良くなってくださいって」
「んゃっ、やぁ…ッ、やだ、…ぁ、井上、く、帰っ」
「駄目でしょ兄さん。ちゃんとお礼もしなくちゃ。井上さん、こっちに来てよ。じゃないと兄さん、もっと可哀想なことになっちゃう」
「あ゙ッ…や、もぉ、ぁ、許して、柊真…ッ!」
柊真は言葉尻に容赦なく体を突き上げた。汗で滑る腰を何度も掴みなおして肌がぶつかる音がする。俺は、田端さんの怯えた縋るような濡れた瞳に誘われたように、ベッドへと近寄った。柊真が嬉しそうに見上げて長い髪をかきあげて、一言、いいよと言った。
「すみません、田端さん」


 


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