幼い頃から見てきた。
友人がいなくとも気丈に振る舞う姿だとか、初めて友人ができたと溢した笑顔だとか、泣き顔も拗ねた顔も全て見てきた。
そんな彼女はいつからこんな表情を浮かべるようになった?
あどけなさを残しながらもしっかりと前を見据える"女"の顔に。
――気づかなかった、いや、気づきたくなかったのだ。
自分が彼女に惹かれているのだと。
気持ちに蓋をして演じるのだ。今日も信頼できる"用心棒"という自分を。
「「「お帰りなさいやせ!!!お嬢!!!」」」
「うん、ただいまー」
野太い声が響き、その後に高い声が聞こえた。
「ただいま、エミヤ」
「ああ、おかえり」
台所に立つ自分に彼女――お嬢は声をかけた。
「む!今日はおでん!?」
「ああ。寒いし、組長も奥様も食べたいとおっしゃっていたからな」
「味見したい味見!」
「その前に手洗いとうがいをだな」
「してきましたー!」
ったく!また子供扱いして、と唇を尖らせ文句を言う。
「味見をしたいと言うなど、子供の証ではないのかね?」
「いいの!味見は大人子供関係ないの!」
彼女はそう言うと「あーん」と口を開ける。
その口に大根を放り込んでやる。
「あつっ!うまっ!さすがエミヤーっ!」
「っ!?」
きゃー!と言いながら抱きついてお嬢に一瞬息が止まった。
ほんのりと彼女から香るシャンプーらしい石鹸の香りが、おでんの出汁の匂いに勝ったように感じた。
「....あ、ぶないだろう。離れろ」
「はーい」
絞り出した言葉にお嬢は素直に従った。
そのまま台所を出ていく後ろ姿を見送り、思わず壁にもたれた。
そのままズルズルと座り込む。
「....まったく」
こちらの気も知らないで。年頃だというのに未だにボディタッチのスキンシップが多い。
自分は"子供"という壁を張らなくてはやっていけないというのに。
まさか他の男にも同じことをしているのでは?
そう考えると胸が粟立つような気がした。
「エミヤー!英語教えてー」
「ああ、構わない....その前に髪を拭け髪を」
大学の課題を片手に部屋にやってきたお嬢の髪からは滴は垂れていないまでも、明らかに乾いていないのがわかった。
「ほら、座りたまえ。拭いてやる」
「むー!大丈夫だって!子供扱いしないでよー!」「風邪をひいても知らんぞ」
「大丈夫だって!」
嫌がる彼女を座らせ髪を拭いてやる。
最初は文句を言っていたがそのうち大学の友人の話になっていった。
「あ、今度の土曜夕飯いらないから」
「ほう。なぜだ?」
「先輩ん家で飲み会ー!」
「先輩....?アルトリアのことか?」
「違うよ。前、紹介したよね?ディル先輩。ほらクーの後輩の」
先輩ん家行くの緊張する!と楽しげに笑うお嬢。
だがその言葉が耳にこびりついて離れない。
男の家に飲みに行く?
まさか2人きりか?
肚の中を黒いモノが渦巻いた。
「エミヤ?どうしたの?手、止まってるけど」
「以前から、君は"大人"扱いして欲しいと言っていたな」
「う、うん....」
バスタオルの隙間からお嬢が見上げてくる。
計らずとも上目使いになった。
風呂上がりで赤く染まった頬、柔らかな唇.......誰にも渡すものか。
「っわ!」
気づいたら彼女を押し倒していた。
マウントポジションをとり、抵抗できないように腕を押さえる。
「言葉通り君を"大人"扱い....いや"女"扱いしてやろう」