「それでは、乾杯!」

「「乾杯!!」」

陶器やグラスが触れ合う音が響いた。
食卓には豪勢な食事が並び、中心にいる若い組員は照れくさそうに笑っている。
組員の誕生日にはこうして祝いの席が設けられ、上下問わず誕生日の者を祝うのだ。

「(美味しいもの食べれるし、幸せー!)」

揚げ出し豆腐を口に入れるとじんわりと出汁が口の中に広がった。
普段からエミヤの料理は格別だが、やはり今日のためにと数日前から下ごしらえされた料理はどれもこれも絶品の一言だった。

「お嬢!ささ一杯!」

「あ、ありがとー」

先ほどから酌をしている組員が私の御猪口に酒を注ぐ。

「おお!お嬢いい飲みっぷりっすね!」

「よっ!さすが型月組次期組長!」

「えへへ〜」

未成年の飲酒はやめろ、と小言を言うエミヤも今日は目をつぶってくれている。
本人もなんだかんだ言って結構飲んでいるみたいだし。

「お嬢、飲むのはいいが飲みすぎるなよぉ」

「わかってるよおじいちゃん」

そう答えてさらにもう一杯飲み干す。
お酒は好きだし、日本酒も初めて飲んだわけじゃないから大丈夫だろう、――そんな考えもあって油断していたことは素直に認める。うん、認めようと思う。




「おいおい、お嬢。ちぃっと飲みすぎじゃねぇか?」

「へぇ〜?らいじょうぶ、らいじょうぶー!クーも飲むれしょー?」

ほとんどの組員は酔いつぶれ、まだ起きているのはおじいちゃんとおばあちゃん、クーにエミヤそれと残りの組員のみだ。
エミヤは空になった皿をさげ、洗っているのだろう台所から水音が聞こえる。

「いやいや、飲みすぎだろどうみても。呂律回ってねぇじゃねぇか!」

「気のせいやよー!あはははクー面白いー!私のお酒をのみなしゃーいっ」

焦るクーが面白くて笑いが止まらない。
ひたすら私に笑われている彼はため息をつきながら私の持っている御猪口を取り上げ中身を煽った。

「えへー、なんだかんだ言いながらノってくれるクーが好きよー」

「おう、ありがとよ」

「むぅ、本気にしてないー!」

「酔っぱらいの言うことなんざ、真面目に相手するだけ無駄だろうが」

「私はクーのこと好きなのにー!」

クーに飛びつくがなんのダメージも受けていないようだ。悔しい。

「おじいちゃーん!」

「なんじゃ?お嬢」

一番の年長者でありながらいまだに顔一つ赤くない祖父のもとへ向かう。
横目にクーを見ると素知らぬ顔で再び酒を飲んでいた。

「あのね、クーがね、私がクーのこと好きーって言ってもね、知らん顔なんだよ」

「よし血祭りにあげるか」

「でもね、おじいちゃんも好きだからね、クーと喧嘩してほしくないの、おばあちゃんも好きよ?」

「あらあら、お嬢はいい子ね」

「お嬢ー!!!」

「きゃー!おじいちゃーん!」

なぜか涙を流し抱きしめてくるおじいちゃん。
もちろん私も抱きしめ返す。
2人で「好き好きー」とやっていた時だった。

「いったいどんな状況なんだ…」

「あら、エミヤご苦労様」

「奥様、これはいったい…?」

「死屍累々といったところかしら」

台所から帰ってきたエミヤがおばあちゃんと会話しているのが聞こえた。

「おじいちゃん!エミヤのとこ行ってきてもいい?」

「ああ、行っておいで」

優しく笑うおじいちゃんの腕から抜けだしエミヤのもとへ向かう。
フラフラしていたせいか、エミヤの胸に飛び込む勢いで抱き着いた。

「お、おいお嬢、どうしたんだ?――かなり酔っているようだな」

「お嬢はね、今、みんなに"好き"って言ってるのよね?エミヤにも言いにきたのでしょう?」

「うん、でもね、エミヤはね好きじゃないの!」

私の言葉にエミヤが息を飲んだ気がした。
そんな彼のことなどお構いなしに背伸びをしてエミヤの頬にひとつキスを落とし、彼の胸元に頬をすり寄らせる。

「愛してんのー!あのね、エミヤのこと愛してるのー!私ね、エミヤのこと大好きなの!でもね大好きじゃ足りなくなっちゃった!これって愛してるってことでしょー?」

「「お嬢!?」」

「あらあら、お嬢は酔うと本音が出ちゃうタイプなのね」

私の言葉におじいちゃんとクーは悲鳴に近い叫びをあげたがおばあちゃんはいつもの調子と変わらない。
私はそんなに変なことを言っただろうか?

だって本当に彼が愛しいのだ。
小言を言った後に頭を撫でてくれる手も、控えめな笑顔も、苦しそうに歪められる眉根も…私が幸せにしてあげたいと思う。
好きで好きでたまらない、ずっとそばにいてほしい。これを愛しいを言わずなんというのだろうか?

「あのねぇ、まだ、素直になれないけどね、いつかちゃんと言うからね」

「…お嬢」

彼にしか聞こえない小さな小さな声で言う。
ちゃんと伝わったのか、おずおずと背中に腕が回った。

「私はね、エミヤのことあいらびゅーよ?エミヤは私のことあいらびゅー?」

「お嬢、オレは…!」

一人称が変わった、今は余裕ぶっている用心棒としての彼ではないのだ。
ただの男になってくれたのだ。
だから私も今できる精いっぱいの愛を彼に捧げよう。

「っ!」

ほとんどジャンプする勢いで背伸びをし、彼の唇に自分の唇を合わせた。
拙い、触れ合うだけのキス。それでも私は満足だ。

「えへへ…エミヤのちゅー…奪っちゃっ…た……」

そこから私の記憶はない。

次の朝、私は今夜のことを一切覚えていなく、また私が寝落ちし一人取り残されたエミヤに対するおじいちゃんの制裁がひどかったらしいのだが…それはまた別の機会にしよう。
今はただ、彼のぬくもりに甘えていたいのだから。





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