※もし2人が付き合っていたら





「で、どこまで進んだのよ」

「へっ!?な、なんのこと凛!?」

「しらばっくれないでください。エミヤさんとどこまでいったんですか?」

「ちょ、桜ちゃん!?」

女子会といえば聞こえはいいが、一方的な尋問だこれは。
いつの日か雁夜おじさんと会った喫茶店で遠坂姉妹とお茶していたらなぜかこんな話題になっていた。

「いつから付き合ってるんだっけ?」

「.....明日でちょうど1ヶ月です」

「ならキスぐらいはすませてますよね?もちろん」

「きききキス!?」

桜ちゃんの言葉に一気に頬が赤くなっていくのがわかる。
私の反応を見て、凛も桜ちゃんも怪訝な表情を浮かべた。

「まさか、」

「まだなんですか?」

「...............はい」

ああ、もう、恥ずかしい。
顔をあげることができず俯いていると、向かいに座る2人のため息が聞こえてきた。
凛が小さく呆れた、とつぶやいてる。

「し、仕方ないじゃん!恥ずかしいんだもん!恥ずかしいんだもんー!!」

「はいはい、騒がないで。煩いわよ」

優雅に紅茶を飲む彼女の言葉に二の次が告げられなくなる。
うぐぐ、と唸っていれば桜ちゃんが閃いた!というように手を叩く。

「明日はちょうど記念日ですし、お嬢からしてみればいいんじゃないですか?」

「な、何を!?」

「「キス」」

重なった声が鈍器のように私を殴った気がした。





「ぅう.....」

昨日から2人の言葉エコーして頭の中を回っている。
そりゃ、私もしたくないわけじゃない、けど.....。

「(改めて意識すると気恥ずかしいし、なんか変な感じになるし、うわあああああ!!!)」

ここが自室で良かった。
思う存分悩むことができる。

「(負い目、感じてるのかな.....)」

昨日、凛が去り際に言った一言。

――あいつ、お嬢に負い目感じてるかもね。

確かに自分は彼よりも断然年下で、ある意味彼の主だ。しかも聞けば自分よりも早くから私を想っていてくれていたようだし.....。
付き合っていることも僅かな友人しか知らない。
一番の関門である祖父にも話していない。
やはり気をつかっているのだろうか。

「(でも、なぁ.....)」

ぎゅう、とクッションを抱き締める。
私だって女の子なのだ。
少しぐらい強引に来てほしいと思うし、なにより私はファーストキス。
するよりされたいと思うの仕方がないはず。

「先に進みたいと思うのは私だけなのかな.....」

「何がだ?」

「うっわほぉぉぉい!!!???」

「おい、大丈夫か。お嬢」

背後から唐突に降ってきた声に叫び声が出た。
振り向けば渦中の彼――エミヤがいた。

「なにを悶々と考えていたんだ?」

「な、なんでもない!うん、なんでもない!!」

必死に弁解すれば、不服そうな表情を浮かべそうか、と答える。
2つづつ手にした紅茶とロールケーキからふんわりと優しい香りがただよった。

「わぁ!美味しそう!」

「組長のご友人からいただいたものだ」

「いただきまーす!」

ロールケーキを頬張れば、ほどよい甘さが口の中に広がる。
くどくない生クリーム、ふわふわなスポンジ。
高級なものだとすぐに理解した。

「おいひい.....」

「ああ、それは良かった」

私の隣でエミヤもカップを口に運ぶ。
紅茶を啜る彼の唇に思わず目をやってしまう。
薄く乾いた唇が紅茶によって少し潤う。
それはどこか扇情的で――なんだかいけないものを見ているような気がしてドキリと心臓が鳴った。

「.....なにか顔についているかね?」

「っ!?な、なんでも」

ない!と否定しそうになって言葉を飲み込む。
これは.....チャンスではないか?

「うん!まつ毛!ついてる!取ってあげるから目瞑って!」

「あ、ああ。.....任せる」

素直に目閉じたエミヤにさらに胸にが高鳴る。
なかなかこんな表情は見ない。

「お嬢?」

「ご、ごめ.....!今、取るね!」

上ずった声がバレてはいないか少々不安だが、ゆっくりと顔を近づける。
周りの音がなにも聞こえなくなる。己の鼓動しか世界にないような錯覚に陥った。
近づく顔に耐えられなく自分も目を閉じ、

少しだけ唇に触れた。

目を開けると驚きで目を丸くしたエミヤと視線が絡まった。
とたんに顔が沸騰したんじゃないかと思うぐらい熱くなる。
急いで離れようと顔を引くが、

「っん!」

腕を引かれエミヤの方に倒れる。
頭を固定され、再び唇が触れあった。

貪るように角度を変え、キスをしてくる。
息が苦しい。そういう気持ちを込めて胸板を叩くが聞いてくれない。
しばらくして満足したのか少しするとゆっくりと唇の温もりが離れていった。

「君は、まったく.....!」

珍しく耳まで赤くしたエミヤが絞り出すように言葉を発した。

「だ、って.....」

「大方、遠坂姉妹にけしかけられたのだろう?」

おっしゃる通りで。

「.....私が我慢していたのがわからないのかね?」

「我慢.....?」

「ああ。私だって男だ。キスをしたいと思う、そこから先だってしたいと思っている」

「エミヤ.....」

「煽ったのは君だ。覚悟したまえ」

いつも通りニヤリと余裕の笑みを浮かべ、彼は再び私の唇に噛みついた。





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