安らかな眠りが、
 君を浸食する前に。

「どうにかして食い止めたかった」
 男は一層悔しそうに、そして一層切なそうにそう言って、唇を噛みしめた。
「けれど……無理だった」

 惣兵衛が覗いた男の心に見えたものは――赤い糸だった。
 徐々に、そして確実に細くなっていた赤い糸。
 そして。

「けれど、無理だった。彼女は……驚く程安らかな顔をしていて」

 嫌、だった。

 何故、そんなにも死を簡単に受け入れる?
 俺との別離が……そんなに。

「そして、俺は愚かな事を考えてしまった」

 そんなに
 俺から離れたいのか?
 俺を独りにしたいのか?

 そして、
 糸は切れた。




糸は


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