潮騒とでもいうべきなのか、この胸の内で突如生まれた何かはどうも穏やかではない。
 常に私の中で騒ぎ立てては、私を何処かへと誘おうとしている。
 私はその潮騒の意に従うことをよしとしないのに、身体はそれに構うことなく動き何かを掴む。

 光に反射し、不気味ながらも美しい輝きを放つ――その刃。

 それを手にしては、仕舞い、手にしては仕舞いを毎日繰り返していくうちに、私の刃を持つ手はしだいに位置を変えていった。
 徐々に徐々に高くなり、いつしか完全に、刃を振り上げたような状態になる。

 これを下ろせば……。

 所々、自分の記憶が途切れ出したのはいつの頃からだっただろう。
 どうも刃を振り上げた後の記憶がない。
 気がつけば、いつもベッドに横たわっている。

 煩わしい。
 肝心なところがないじゃないか。


 私は飽きることなく、今日も刃を握るのだろう。
 潮騒の音をそれとなしに、聞きながら。




潮騒


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