「あしたは晴れるかなぁ?」
 娘が私に問いかけた。
 窓の外は一面の銀世界。今もまだ、雪は降り続いている。
「晴れたら何をするんだ?」
 娘と同じように、曇った窓の一部を手で拭き、外の様子を覗く。
「いっぱいいっぱい遊ぶの! えっと、それとね……」
「それと?」
「うー、ないしょ!」
 そう言うと娘は窓から離れ、妻がいるキッチンの方へと駆けていってしまった。
「お、おい……」
 内緒。
 娘が私に隠し事……?
 娘が『ないしょ』という言葉を覚えたことに、私は喜びを感じつつも、どこか悲しい感じもして、その場に突っ立ったままどうにもできないでいた。
 それにしても、私に内緒にしたい事というのは、いったい何なのだろう。

 気になって仕方がなかったので、夕食時にさりげなく娘にさっきの話を持ち出してみたが、巧みにかわされてしまった。
 どうも妻も娘に協力しているらしい。
 あの巧みなかわし方は、妻の協力があってこそに違いない。
 結局、『ないしょ』の内容を知りえぬまま、一夜が明けてしまった。

 次の日。
 珍しく遅くまで寝ていた私は、娘ののしかかり攻撃で起こされた。
「パパ、晴れたの! 晴れたのー!!」
「うん……?……何だ何だ」
 寝ぼけ半分にそうつぶやいて寝返りをうつと、私は再び眠気に襲われた。
 娘はそんな私に痺れを切らしたのか、今度は私の体を思い切り揺すり始めた。
「パーパー! 起きるの! 起きるの!!」
「……分かった、起きるよ」
 激しい揺れに耐えられなくなり、私がようやく体を起こすと、それを見て娘はうれしそうに笑い、一足先にダイニングへと向かった。
 朝食を済ませ、娘にいざなわれるままに庭に出るとそこには三つの雪だるまが。
「パパにね、これ見せたかったの」
 三つの雪だるまは、それぞれ大きさが異なっていた。
 これは……。
「一番おっきいのが、パパ。次におっきいのがママね。一番ちっちゃいのが……」
「リアノか」
「うん!リアノなの!」
 そう言って娘は私の手を握り、大きく揺らした。
「パパにね、見せたかったの」
「いつ作ったんだ?」
 私は娘の頭の上に手を置き、そして視線が合うようにその場にしゃがんだ。
「朝起きてから作ったの。パパにばれないように、はやーくはやくに起きたの!」
「そうかそうか」
「晴れないと、雪だるまさんきれいに見えないの」
 娘が今日晴れるかどうかを気にしていたのは、雪だるまの事があったからだったようだ。
「あぁー!!」
 娘が内緒にしていた事が分かり、思わず安堵した私は大きな声を上げながら立ち上がっていた。
 そんな私を、娘は不思議そうに見上げる。
「パパ?」
「いや、ほっとしただけだよ。さぁて」
 私は娘を抱き上げた。
「ママにはもう見せた? 雪だるまさん達」
「ママはまーだ」
「じゃあ見せなきゃな」
「うん!」
 娘は満面の笑みを浮かべて、私の首に抱きついた。

 娘の『内緒』という発言にはひどく動揺したが、こういう内緒なら悪くない。
 陽に照らされた雪だるまが、輝いてとてもきれいに見えた。




内緒


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