繋いでいるこの手に温もりが無かったのなら、どんなによかっただろう。女は男の顔を見上げながらそう思わずにはいられなかった。
「君にさみしい思いはさせない」
 そう言って男はずっと女の傍にいた。それこそ、片時も離れることなく。

 女が不安な時は、そっと抱きしめ大丈夫だと耳元で囁いたし、少しでもその不安を和らげようと温かいその手で女の冷たい手を包んだ。
 女がさみしくないように。女が幸せであるように。
 確かに、男は女の傍にずっといた。だがそれは本当に、ただずっと一緒にいた、ということに過ぎなかったのだ。
 ――さみしい。
 目を合わせて話してくれない。この人は、私の話をちゃんと聞いてくれない。この人はただ傍にいてやれば私が満たされると思っている。
 そんなはずが、ないのに。
 身体だけ隣にあったって……ちっとも。

 繋いでいるその手は温かい。だからきっと、余計に感じてしまう。女が望むものがそこにないことを、そして手の温もりとは裏腹に冷めるような想いを抱える自分のことを。
 どうせなら、どうせなら拒絶したくなるくらいにその手が冷たければよかったのに。その方がいくらか救われる。
 何度も何度もそんなことを思った。

 男の身体から溢れ出る温もり、それがどれだけ温かいかを誰よりも知っているのは女に違いない。
 しかし、いくら温かろうとそれが女の幸せ、安心に繋がることは決してないのだ。
 もういっそ、こんな温かいだけの身体なんて、なければいい。
 私はあなたの――あなたの心に傍にいてほしいのに。




『そ』
傍にいて。――それはきっと、言葉に出来ない切なる願い



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