終わりが見えない旅は少女にとってとても辛いもののように思えた。
 旅に出たつもりが、当てもなく彷徨う……亡者になってしまうことが恐ろしかった。
 だから。
「おいで。私のところに」
 少女は自分の前に差し伸べられた男の手を、じっと見る。
 自分の内からじわじわと喜びという感情が滲み出てくるのが、嫌という程分かった。
 高鳴る鼓動、俄かに染まる頬。
 感情が高まりすぎて、堪えようとしなければ体が震え出しそうだった。

 自分が何処に行きたかったのなんて知らないけれど、でも此処なら、此処ならいいかもしれない。
 ――この人の、ところなら。

 少女は男の手に自分の手を重ね、隠しきれない喜びを顔いっぱいに浮かべて男の顔を見つめた。
 男は穏やかな微笑みを少女に返し、その手を強く握った。


「そしてあなたは――幸せになったのではないのですか?」
「いえ……その、逆でした」
 当時少女だったその女は、一生拭いきれることのない後悔を、その時己に与えてしまったのだ、と男に語った。
「勘違いも甚だしかったのです」

 運命の出会い、運命の相手。
 私は此処で、この人と一緒に生きていくのだ、という予感は裏切られたというよりも、裏切ったという方が正しかった。
 本当はそんな出会いや相手ではないことをどこかで知っていたにも関わらず、それを無視し――流れてしまった。
 私は亡者などではない、そんな見栄を張るような思いの為だけに。
 自分を裏切った。
「私には、自分自身を騙しきれない私を助けてくれる人がいたものですから……今は、幸せです」
 そう言って女は微笑んだ。
 それが嘘の笑顔なのか本当の笑顔なのか、見破る術など男は持ってはいなかったが、本人が幸せと言っているのだからまぁ、いいのだろう。
 そう思うことにした。




『よ』
ようやく、ここへ



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