窓から差し込む光だろう、その光が今日も暖かい。ここ何日かずっと、雲一つ無い晴天が続いている。
といっても、少年が自分の目で確かめたというわけではなかった。事実晴天はここ何日か続いているのだが、視力の弱い少年の目ではそれをしかと確かめることができなかったのだ。窓から差し込む光と、そして自分の傍にいてくれる青年の言葉。それからここ何日かは晴天が続いているのだ、と思っているに過ぎない。もしその事実を推測し得る手がかりがなかったり、青年の言葉に偽りがあれば少年は、何が実際に起きているのかを正しく把握することはできないし、それ以前に自分の身の回りで何かが起こっていることさえ知ることができなかった。
「今日もいい天気だね、蒐殷(しゅういん)」
だが、この青年が嘘をつくことなど、少年は考えたこともない。
それ程に信頼しているのだ。その目の為に姿をきちんと見ることはできないが、穏やかな、それでいて力強い声の持ち主であるその男のことを。
「あぁ、そうだな。今日も、よく晴れている」
青年の名前は蒐殷と言った。
変わった名前だね、と少年が言うと、人間ではないからかもしれない、とそう青年は答えた。
もちろんその言葉に少年は驚いたが、しかしそんなことはどうでもよかった。
どんな人間だろうと、たとえそれが人間でなかろうと、少年にはその姿が非常にぼんやりとしか見えないからだ。よって容姿による障害はない。
それと同時に容姿からその人物が危険であるのかそうであるのかも分からないが、蒐殷はそのような人物ではなかった。
協力をしてくれないか、と少年はその青年に言われた。
困っているのなら、こんな自分でも誰かの役に立てるのなら、と思い少年は青年の言葉を受け入れたのだった。
契約を結んでほしい、という青年の言葉を。
「少し出かける。平気か?」
「もちろん。いってらっしゃい、気をつけてね」
そう言って少年は声のする方に、軽く手を振った。
不思議なやつだ、と蒐殷は少年のことをそう思う。
今まで様々な人間を見てきたが、少年のことだけは何故か他の人間とは違って見える。
それが何なのか、はっきりとは解らないが――ただ、少年の隣は居心地が好い、そんな感じがするのだ。
蒐殷は人ではないが、人型をしている。彼は自分の左目に手を遣った。
たまにひどく痛む、その目。――自分を縛り続けるもの。
この目のために、蒐殷は何度か死のうと思ったことがある。
しかし、そう思ったもののなかなか踏み切ることはできず、そのままずるずると生きていた。
左目の痛みは辛い。
今までもそうだが、これからもずっとこの痛みに苦しみ続けるのだろう。
それでも蒐殷は、生きていてよかったとそう思えるようになったのだ。
あの少年に出会ってから。
「お前の傍でなら、俺は生を望もう」
故郷にもなかった心地の好い場所が、この異界にはある。
『ぬ』
ぬるま湯のように心地好い場所