「そうね、若いとか若くないとか関係ないのだわ。結局やるかやらないかなのよ
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「あれは人です。人間だから怖ろしいのです」
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「君は君の取るべき責任だけを取ればいいんだ。他人(ひと)の責任まで取ることはない。変なところで欲張ってはいけないよ」
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「道徳とは倫理とは、教えられるものであって本能ではない」
「私は今嘆こう。このような刷り込まれた道徳や倫理(みち)でしか人は己を律することができないということを」
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「あの子は怨んでいるでしょう、私のことを。あの時手を離さな、ければ……」
そう言って男は己の拳を強く握り締めた。男は震えている。後悔か懺悔か、男に過る様々な積年の思いが男の体を震わせているのだろう。
「言い難いことですが、お兄さん」
かつてはただの幼馴染として、そして今は恋人として――男の妹である彼女を見守ってきた青年は静かに言葉を発した。
男とは違った、しかし男と同じような真摯な積年の想いがこの青年にもあったのだ。
「幸か不幸か彼女は、あなたのことを怨める程の、憎める程の、そんな記憶さえ持ち合わせてはいませんでした。本当に、まったくです。あなたに対する思いは、どんなものであれ存在しなかった。慕う思いも怨む気持ちも無い、全ての寄る辺を失って彼女は育て親のいた村へ辿り着いたんです……」
男はその時初めて思い知った。
自分は怨まれていると思うことさえ――思い上がりであることが時にはあるのだということを。
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――もう、解り合えないということが当たり前だったんです。
だから。
「意思が通じ合うことの方がよっぽど怖ろしいと思うのは、病気ですかね」
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この人は。
と、その人物の行動に思わず絶句する。
この人は、自分さえも分析(バラ)している――。
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