湿った青銅色の通路の脇には浅く掘られた水路がある。水路というくらいだ、雨水だの何だのが通路の脇を流れるのだろう。
 ひたひたと僅かに音をたてながら少女はそのトンネルのような通路を歩く。目的は分からない。だか彼女の体はどこかへと歩みを進める。
 しばらく歩いていると、少女は不意に何かが変わったことに気がつく。
 空気が、いや臭いだ。
 少女が思い出したようにふと脇の水路を見ると、いつの間にやら流れていた水に赤いものが混ざっていくところだった。
 それはまるで芳しいもののようにぶわっと広がり、あっという間に水路を埋め尽くした。
 その色に少女は驚き、そしてたじろぐ。
 だが、それでも彼女は進んだ。

 少女はどこかへ向かわなければならなかった。

 ひたひたとほとんど盲目的に歩き続けて、少女はとある部屋に辿り着く。ただ真っ直ぐに歩いてきたのかもしれないし、どこかで何度も曲がったのかもしれない。もしかしたら階段を上ったのかもしれないし、逆に下りたのかもしれない。とのにかくどこをどう歩いてきたのかは分からないが、少女は畳の敷かれた部屋、つまり和室に辿り着いたのだった。
 少女はついに来てしまった。
 少女はゆっくりと和室の中を進み、押入れの前で歩みを止めた。そして迷うことなく襖を開け、上下に分かれている空間の上のほうへ自身の体を持ち上げる。
 頭のすぐ上に押入れの天井がある。
 少女が顔を上に向けると、天井に大きな染みがついているのが見えた。その染みは本来ならばあるはずのない長方形の切り込みを中心に歪な形に広がっている。

 ――あぁ。

 そこに何があるのか知っているのに、彼女はすっと天井に手を伸ばしてしまう。
 少し力を込めて染みの中心部分を押すと長方形に天井の板がことっとはずれた。少女はその長方形の穴を覗き込んでから、落胆したようなほっとしたような心持ちで手でそれを取り出した。
 それはいつか(過去)の、あるいはいつか(未来)の人間の首だった。

 首のことを知っていても体から離れる前、その首がついていた一人の人間のことは、少女は知らない。




天井裏


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