――今日は一つもいいことがなかった。
少女はバスを降りると、小さな溜息をついて残り数分の家路を歩き始めた。その後ろ姿はいつもより元気がない。
これを運の悪い日というのか、とにかく今日は何をやってもうまくいかなかった。友人関係や勉強、それだけならまだしも、片想いの人に関することでさえうまくいかなかった。
気分の切り替えがうまくいかず、一度躓くとなかなか立ち上がることができない。
少女はずっと膝をついているような状態で、学校での一日を過ごしたのだった。もちろん、鬱々とした気分になれずにはいられない。
とぼとぼと夜道を歩きながら少女は考える。
悪いことが続く日なんてそう珍しくないし、こうやって沈んでしまう方がもっと悪いことを呼んでしまうかもしれない。
電車やバスの中であれこれ考えているうちに、少女の気分はこれでもかというくらいに沈みきってしまっていた。
しかしどん底まで沈んでしまったことがかえってよかったのか、もういい加減にくよくよするのは止めよう、とそのように、少女は歩きながらようやく前向きな気持ちになれたのだった。
そんな少女のすぐ脇を、車が通った。道路沿いにある
家の庭にある草が道路まで延びてきていて、その草を避けながら歩こうとすると少しではあるが道路にはみ出してしまうのだ。
しかし歩き慣れている道なので、少女は大して気にしていない。
少し上を向いて、青白く美しい輝きを放っている今夜の月を見る。
月の神秘的な輝きがそうさせるのか、不思議なことに何かいいことがあるかもしれないと少女は期待を胸に膨らませることができた。
そしてイヤホンから流れてくるお気に入りの曲は、諦めずに力強く進んでいけと少女を励ましている。
――よし。明日からまた、がんばろう。
少女は、美しい月とお気に入りの曲に後押しされて、今日初めての笑顔を見せた。
とぼとぼと歩いていたのが、いつの間にか足取りが軽くなっている。
今日の晩のおかずは何だろう? そんなことを考える余裕まで出てきていた。
すこし大きめの音を立てながら、工事現場で使うような用具を載せたトラックが脇を通った。少女が歩いている道は高速道路へと続いている道で、トラックなど、あらゆるところへ向かう大型車が通ることは珍しくなかった。
少女は道路側の肩に学校の鞄をかけていた。
そして再び、先程と同じようなトラックが少女の脇を通る。
「え?」
突然、少女の身体が強い力で道路に引っ張られた。一瞬、少女の足がふわりと地面を離れる。
そして少女は訳も分からないまま、暗い夜道の中を引きずられていった。
月がただひたすらに、少女の目には映っていた。
Possibility―夢現―「帰り道」