彼は寝ていやしませんよ。
えぇ、寝転がっているだけなんです。
もちろん息はしていません。
体も、もう冷たいかもしれませんね。


よく考えてみりゃ不思議なもんです。寝ているようにしか見えない、というのに寝ているわけではないっていうんですからね。

どちらかといえば、眠っている、の方が近いのでしょう。
これから先、ずっと目覚めることはありませんけどね。

永眠。

まさに字の通り、そのまんまです。永遠の眠りってやつですよ。


え? 何で眠っちまったのかって?
そこまでお聞きになりたいのですか。
困りましたね。
ワタシにもそこまでは……。

眠かったわけではないでしょう。
彼はまだまだ若かった。
瞼が重くなるのには早すぎるってもんですよ。


もしかしたら、ですが。

誰かに眠らされたのかもしれません。
そしてその無理矢理眠らされた相手に、端の方へ追いやられたんですよ。
こぼれてしまった体内の紅い水分はそのままに、まるで忌むべきもののようにね。

いやいや、そんなわけはありませんよ。
本当に親切なヤツだったら、きちんと然るべき場所へ彼を連れていってくれるはずではありませんか。


ごほん。
えぇとまぁ、ごちゃごちゃと申しましたがね。
彼は眠りました。
ワタシが言いたいのはそれだけですよ。
彼は眠りました。


彼は眠ったのですよ。





寝ているだけなら、よかったのに。







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