いつか別れる日が訪れることをどこかで知っていたが、ずっとそれに目を背けて彼は毎日を過ごしてきた。
 それを意識して日々を生きることは今まで漠然としか考えてこなかった運命という得体の知れないものに負けたことになる――そういう思いが彼にはあって、目を背けることは抵抗のつもりだった。しかし今、そう思っていたことが覆されようとしている。
 お前の行いは抵抗ではなくただの逃げであったと、もう一人の自分が囁いたのを彼は確かに聞いたような気がした。
「まぁ抵抗しようがしまいが結果は同じだけど」
 軽やかに階段から降り立った女は言った。カツンカツンとブーツの音を鳴らしながら横たわる彼女の傍に歩み寄る。
「あらあら、結構穏やかな表情で眠ってるじゃないの。あんたなんかよりよっぽど覚悟を決めてたんじゃないの、お嬢さんの方は」
 何も答えない彼に挑発的な眼差しを向けた女は、眠る彼女の白い頬に手を伸ばした。
「穏やかな顔のまま死なせてあげるわ。なかなかに幸せよ、きっと」
 べたべたといやらしい手つきで彼女の頬を撫でる女を見てようやく、いや、ついに彼は言葉を放った。
「気安く、触るな。お前なんかが触れていいひとじゃあ……ない!」
 一瞬で女の目の前にまで移動し彼は思いきり手を払った。パンと乾いた音が響く。
「お前らの好きにはさせない、思い通りにはならない。いずれ離れる時が来ても、それは俺達の意思によってだ!!」

 いつか別れなければならない日が来る。どんな形であれ彼らは受け入れる、それが避けられないものであるならば。
 例え――どんな形であっても。




どんな形であっても


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