そろそろ扉を開けに行かなければならないらしい。
ただ、らしいというだけでそれが本当のことであるのかそうでないのかは分からない。いや知りようがないのだ。
周囲の雰囲気に急かされて、というのは確かにあるが単にそのことだけが扉を開けに行かなければならない理由ではなかった。確実にその理由の中には、自発的なものも含まれていた。
しかし理由といっても、そう大したものでもないような気がした。
その場所にいることに飽きたから、または気紛れにどこかへ行きたいという気になった、そんな些細な、単純な、思いつきの理由かもしれない。
扉はいつでも目の前にある。
ただそのノブになかなか手をかけない。それが、日々の生活の中の「当たり前」だった。何の不思議もない。
ドアノブになかなか手を伸ばさないにも関わらず、時にその場所に留まっていることをもどかしく感じることがある。それはその場所をひたすら歩いてみたり、走ってみたり、その場で飛び跳ねてみたりしても、決して治まることはない。
どうしても、景色が変わることがないからだ。
見方を変えるというのはどうにも難しく、また見方を変えることは新たなものを発見することにも繋がるが、悪い方へ向かえば現実逃避とそう変わらない。
だから、要するに手を伸ばせばいいのだ。
目の前にあるその扉を開け、どこか別の場所へ行けばいい。
――それも現実逃避、なのだろうか。もしくは新たなものの発見。
扉はいつも目の前にあるが、ただあるだけだ。別に扉の向こうの場所の安全や何やらを保障しているわけではない。
開かれた扉の向こうに何があるのか。
それが分からないから怖ろしく、そして、なかなかその向こうに行けない。そう思うだろう。しかし知っていれば怖ろしくないのかといえばそうでもない。知っていても怖ろしい、知っているからこそ怖ろしいこともあるはずだ。
結局、どちらにしても怖ろしい。
様々なものに阻まれ、翻弄され、励まされ、夢を見せられ、その場に佇んでいる。
何に重きを置いて、動くべきなのか。それさえも分からない。
だがやはり、そろそろ扉を開けに行かなければならない気がする。
いずれにしても苛まれるのなら、扉を開けてからでも遅くはないかもしれない。
不安、後悔、期待、そして喜び。様々なものと触れ合う前にまず、どこかへ行こうと思うことだ。
何に出会えるかは開けてからのお楽しみ。
扉の向こう