「で、何の用かな」
「おはようございますー、カーテンのお届けに参りましたー、失礼しまーす」
作業着を着た男たちは、そう馬鹿の一つ覚えのように言って軽く会釈すると、二人で細長い段ボールを抱え部屋に入ってきた。そして俺の警戒をよそに本当にカーテンを替えて、領収書やら保証書やら適当な紙を渡して、本当に、たったそれだけで帰って行ったのだから、右手のサバイバルナイフはついに所在無くソファに放り投げてしまったというわけで。
「へえ、まさか殺されるかも知れないとか思ったりしたわけ?映画みたいに不意討ちに狙われるんじゃないかって?」
嘲笑をたっぷり含ませ小馬鹿にしきった言い方が癪に障る。その後何事もないように悠々と出勤した彼女は実にあっけらかんと、これで少しは陰気臭くなくなったわねとソファに投げたままのサバイバルナイフをテーブルの上に置き、自分はソファに座って、ふんと俺を見上げたのだった。
「伊達にこの商売続けてるわけじゃないからねえ、恨みもそこそこ買ってるし、俺が死んで喜ぶ奴なんか世の中には腐るほどいる」
「わざわざ言われなくても知ってるわ」
「さすが元矢霧製薬の重役、理解が早くて助かるよ」
「私もあなたが死んで喜ぶ奴とやらの内の一人だからかしら」
「身に染みるねえ」
わざとらしく肩を竦めて言えば、彼女は俺を一瞥し、カーテンに触れ、そこから見える新宿の街を眺めた。少し窓を開けたのか、麻の匂いがする。新宿の窮屈な都会の街並み、麻のカーテン、そしてそれを一枚挟んだこの家の中で、俺と彼女は可愛げもない嫌味を飛ばし合っている。たった二人で。彼女が此方を振り返る。
「それで?今日のお昼は何がいいの」
揺らめく麻のカーテンを背に、彼女が俺の答えを待っていた。俺は少し考えた、昼食を考えたのではない、二人で考えるのはどうだろうかと、ふとそう考えた。執着もない、好意や愛情などあるわけもない俺と彼女の二人で、今日の二人の昼食について考えるのだ。二人のために。そうするのが、とてもいいような気がした。それだけだ。せっかく付けたパソコンの画面がスリープモードのまま、ぶうんと唸った。