「骸さま、もう少しでペンギンのショーが始まるわ」
「先に行っておいでなさい、僕はもう少しここを見て回りますから」
ペンギンのショーはちっとも面白くなかった。私が上の空だったからかもしれない。歓声が上がるたびに私は機械的に手を叩いていた。右隣りの席には家族連れの男の人が、左隣りには私と同じくらいの女の子が座っている。彼の席を取らなかったのは、彼がきっと来ないだろうと思ったからだ。案の定彼は来なかった。気になってショーが終わる前に席を立つ。彼は甲殻類のコーナーでじっとしていた。
「クローム、もう終わったんですか」
「はい、骸さま」
「僕も一通り見終えましたよ。来世は水族館の飼育係でもいいかもしれないと考えていたところです」
「それなら私、毎日通います」
「おや嬉しい」
彼はそれから私の頭を撫でて、次はどこへ行こうかと笑う。冬の日の入りは早いが、しかしそれでも十分に遅い時間だった。どこへでも構わないと私は言った。きっともう帰るつもりなど更々ないのだろう、私の手を引いて歩く彼は、いつもより小さく見えた。