「もっもももしもし!」
「おう、しえみ?起きてた?今何してんだ?俺昼飯作るからさ、暇なら食べにこねえ?雪男のやつ職員ナントカでさっき家出ちまってよ、あの…まぁ二人だけど」
私がうん、と返事をしようとするたび、矢継ぎ早に燐の声が受話器から流れて来るのが可笑しくて、結局私はそれらの問い全てにまとめて、ようやくうん、と言った。途中から何となしに燐の声が小さくなったけれどあまり気にならなくて、それよりもお昼にお呼ばれされたことで頭がいっぱいだった。お昼の約束をして受話器を置くと、お母さんが待ち構えていたみたいにして塾への鍵を渡してくれた。ポニーテールにしようかカチューシャを付けようか迷うけれど、迷う時間ならたっぷりあと三時間はある。
「ねえねえ、お母さんはどっちがいいと思う?それから靴は何履いてけば変じゃない?バッグはいつものでいいかな、やっぱりあれじゃおかしいかな?えぇと…あれっ、お母さん私の白いレースのカチューシャ知らない?あっ、でもポニーテールの方が…」
「どっちでもいいけど、しえみ、あんた首のとこ、タグぶら下げたまま外出する気かい?」
「…今外そうと思ってたの!」