「辛気くさいのよ。骸ちゃんとクリスマスだけは過ごしたくないわね」
ちょうど僕はフライドチキンを掴んだその手を舐めて、そしてその指をせっせとテーブルクロスになすりつけている最中だった。特に此方を見遣る様子もない。彼女は続ける。説明書なんかの類を見ようともせず、しかしてきぱきと配線コードを束ねていく。
「神様にお祈りするの。神様!ほんと都合のいい言葉。だいきらいだわ。無宗教が聞いて呆れる」
「むしゅーきょーって何ですかー?」
「自分しか信じないことよ。しみったらしいクリスマスなんかいらない。お酒を飲んでチキンを頬張ってデザートの山に埋もれて、歯磨きもしないまま眠っちゃうの。それが無宗教ってこと」
彼女がケーブルを抜き差しする度に、テレビが点いては消え、点いては消える。彼女は何か胡散くさい宗教でもやっているのだろうか。だってお酒なんかグラス一杯でへろへろになってしまうし、チキンもデザートもかじるくらいしか食べられないし、それに僕が歯を磨かないまま眠れば間違いなく叩き起こされる。彼女は痩せぎすで、それから潔癖症だ。
「ちょっと!私のドレスに何してくれるの!」
「うぎゃっ」
ふいに彼女が此方に甲高い声を上げて、勢いよくテーブルクロスを引っ張った。テーブルの上に両足を放り投げていた僕は、途端に体勢を崩し、情けない呻きと共にひっくり返る。起き上がって彼女を見上げると、どうやらナプキン代わりにしていたテーブルクロスは、今日師匠が彼女に贈ったロングドレスの裾だったらしい。ふんだんにタッグの寄せられたスカート部分が、フライドチキンの申し訳ないカスで黄色く汚れている。
「ねえフラン」
「あの、ミー別にわざとじゃ…それにクリーニングすればまだ」
「私思うの。お酒とチキンとデザートがあったってこんなのただの馬鹿騒ぎでしかないわ。今日はクリスマスよ。プレゼントがなくちゃ。それもこんな悪趣味なロングドレスなんかじゃなくて、真冬にお門違いなチューブトップで、ミニのワンピースがね」
「はあ」
「それから言っておくけど、きっと何百回クリーニングしたとしても、フライドチキンくさいドレスなんて真っ平よ。あんただってそう思うでしょ」
彼女は僕の二の腕を掴んで立たせると、電器もテレビも付けたまま、かじりかけのフライドチキンに空けかけのスパークリングワインすらほったらかして、僕にカエルの目のついたニット帽を被らせた。手袋を嵌めさせて、どれにしようかしら、あったかいのじゃなくちゃ、そう言ってコートを選ぶ彼女はなぜだかとても上機嫌だ。余談ではあるが此処の独裁者、あれは朝から三人の子分を連れて、この街で一番古い教会にお祈りに行っている。何とも信仰深いことに。