明日知らず
異三郎について食堂でお昼を食べていると、真撰組の副長が私の前に腰を下ろし、そして煙草を吹かしだした。マルボロ、異三郎と同じ。先にデザートの杏仁豆腐まで食べ終えた異三郎は、私ともう一人の副長に交互に目線を遣り、それから何も言わず席を立った。私はまだ白身魚のフライを箸でつついている。小骨が口の中につっかえて上手く食べられない。それにつるつるした杏仁豆腐はきっとスプーンでさえ掬えなくって、私は両手で皿を抱えそのまま口に流し込むことになる。はしたない、異三郎はそう言うだろう。

「ガキみてえな食い方」

目の前の彼は、わざとか知らないが煙を除けるわけでもなく、それを吐き出しながらようやく口を開いた。右の膝に乱暴に左の足を乗っけて、浅く腰かけたその格好はどこぞのチンピラだ。

「はしたないのね」
「お嬢さんよォ、そりゃ褒め言葉のつもりか」
「いいえ」

左腰にぶらさげた刀の柄に手をかけると、彼がにやにや笑いのままに煙草を落とし、右足でその火を踏み潰した。じゅ、と嫌な音がする。

「お前が男なら真っ先にうちの隊にしょっぴいたんだがな」
「私は異三郎の下にしかつかない」
「大した忠誠心なこって」

二本目の煙草は右手に弄んで、無造作な前髪が目にかかっている。

「…女扱いもいらない」
「女扱いも何もてめえは女だろうがよ」
「それでわざわざ私をからかいに来たの、鬼の副長さん」
「まあなんだ、からかいついでに一手やりあうのも悪かねえだろ」

口の端をニヒルにあげる悪ガキのそれは、異三郎のそれに少し似ていた。


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