※現パロ、大学生〜社会人辺りの食伊、同棲設定。



切っ掛けは些細な事だった。

その日、僕等は週末の休日を使って、少し遠出のドライブに行く予定だった。
朝、寝坊せずに目覚めて、すぐ隣で眠る、朝に弱い留三郎を揺り起して…。
二人で、朝食を食べて、さぁ、出かけようとなった所で、僕等は喧嘩になった。
最初は、そう。
留三郎が、免許証が見当たらないと言いだしたのだ。
結局、探し始めて15分程で免許証は出て来たのだが…。
「あーあー、もう勝手にしろ。お前の好きにすればいい!」
「何だよ、それ?留三郎が悪いんだろ?僕のせいみたいじゃないか!」
既に始まってしまった言い争いは、加熱して…。
「どこ、行くんだよ?」
僕を押し退けて、部屋を出て行こうとする留三郎を振り返れば、問いには答えぬまま、彼は玄関で自分のスニーカーを足に引っ掛けていた。
「ちょっと!」
バタンとドアの閉まる乱暴な音と共に、彼の姿は部屋から消えた。
「…何あれ?腹立つなぁ」
僕は苛々とした気分に任せ、廊下を乱暴に歩くと、彼の出て行った玄関に鍵を掛けた。
大体、今日のドライブだって行こうと言い出したのは、留三郎だ。
だというのに、彼は出掛けまで免許証の所在すら確認していなかった。
ならば、僕が往復共に運転すると言ったのだが、留三郎は頑なにそれを嫌がった。
確かに僕の運転は荒いらしく、ヒヤヒヤするとか酔うとか…、よく言われるけど…。
僕に運転を任せきるのが嫌なら、昨日の内、もしくはもう少し早くに、車を運転する手筈を整えておくべきだ。
自分の段取りが悪かったというのに、彼が一人で苛々し始めて、明らかに当たる様な口調で言葉を発するので僕はそれに反論した。
嫌味を込めて発した言葉が、留三郎の癪に触ったのだろう。
当然だ。
わざと癪に触る様に言ったのだから。

結果が、これだ。

でも、僕は悪くない。
悪いのは、留三郎だ。

そんな事で、ムシャクシャして、二度寝を決め込む事にした。

折角の休日が台無しだ!

そうして、数時間して目が覚めた。
ベッドに寝転ぶのは、僕だけ。
まだ、留三郎は帰って来てはいなかった。
鍵は持っているだろうから、玄関に鍵を掛けたと言っても、出入りは彼の自由だ。

身体を起こすと、なんとなく空腹感があり、キッチンに向かい、冷蔵庫の中身を漁った。
材料を引っ張り出して、コンロの上にフライパンを置く。
時刻は、とっくに昼を過ぎ、夕方に近かった。
「…何、してるんだろ」
テーブルの上に、並べた二つのオムライスを見て、一人呟く。
薄焼き卵の幅が足りず、端からチキンライスが覗いていて、少しばかり形が不格好だ。
料理は得意では無い。
出来あがったオムライスにスプーンを入れることもせず、椅子に座る事もせずテーブルの前に突っ立ったまま、どれ位の時が立っただろうか。
多分、ほんの数分だったのだろう。
玄関のドアの鍵が開く音がした。
留三郎が帰ってきたのだと、ハッとしたが、机の上に並んでしまっている二人分のオムライスを隠す間は無かった。
「あっ…、おかえり」
「…ただいま」
リビングに現れた彼に、そう挨拶はしたものの、間に流れる空気は固く、どこか気まずいままだ。
「飯、作ったのか?」
「…だって、君が出ていってしまって、予定が中止になって、…暇だったから」
留三郎は、机の上に並んだ二つの皿を見付けたようで、こちらに歩み寄って来る。
まるで言い訳の様に、僕はシドロモドロとそれを作った理由を述べた。
「…オムライス」
「冷蔵庫に材料が…、あったからだよ!」
たまたまだ。
たまたま、材料が冷蔵庫に入っていたのだ。
僕は、それを作った理由を、どうしても、偶然を装わせたかった。
留三郎の好物がオムライスだなんて、そんな事、百も承知の話なのだけど…。
そうして、僕の泳がせていた視線は、留三郎が手にしている一つの紙袋を捉えた。
朝、出て行った時は持っていなかった筈だ。
「それ…」
見覚えのあるそれは、近所の洋菓子屋の紙袋だ。
休日限定で売り出されるエクレアが、とても美味しくて、毎日でも食べたいと思う位に、僕のお気に入りだった。
「…たまたま、帰りに見たら、…まだ売ってたんだよ」
留三郎がテーブルに置いた紙袋の中から箱を取り出すと、案の定、中にはシューの上にメレンゲの乗った限定エクレアが二つ並んでいた。
今までキツく引き結んでいた筈の僕の口元は、思わず緩んでしまう。
留三郎は椅子に腰掛けると、テーブルの上に並んだオムライスを引き寄せた。
「あー、腹減った。早く食べようぜ!」
「そうだな」
僕は冷蔵庫に向かうとケチャップとビールを取り出して、彼の向かいに座った。


【休日とオムライスとエクレアの話 】


あとは「ゴメン」を言うタイミング。

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10/11/26




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