【声を聞かせて】


その晩は、酷い嵐だった。
ゴウゴウと風の吹く音と、それに煽られ横殴りになった雨が、屋根やら戸板に打ちつけられる音。
夜が更けるに連れて酷くなり、ゴロゴロという雷の唸り声も聞こえ始めた。



「んんっ、…ふ…」
留三郎の胡坐の上に跨るようにして伊作は彼と向き合い、濃密に唇を重ね合う。
夜着の合わせから手が差し入れられ、直に肌を探られる感触に、ビクリと身体が震えた。
留三郎の手が撫でるように優しく、胸から脇へと滑り、ゾクゾクとした物が背筋を走る。
漸く口付けをほどくと、離れた互いの唇の間を唾液が糸を引くように延びた。
「はっ、はっ、…っつ」
口吸いに高揚し荒くなった息を落ち着ける間もなく、留三郎の手によって夜着の前を開かれ両手で腰を撫でられる。
舌が首筋を這い、肩口に柔く歯を立てられ、伊作の身体を下降するその唇が胸の尖りを吸った。
「…んぅっ」
思わず大きく漏れそうになった声を、慌てて手の甲を己の口にあて堪えた。
しかし、その手は留三郎に掴まれてしまう。
「嵐で他所には聞こえやしないだろ」
でも…、と講義しようとした声は、再び唇を吸われてしまい発する事は叶わなかった。
口付けたままで布団の上に組み敷かれると、器用に下帯を外され、既に芯を持った伊作の自身が外気に晒された。
留三郎の長い指がそれに触れて、敏感な先端を撫でる。
たったそれだけで、伊作の腰はもう揺らぎそうになった。
「…んっ、あぁっ」
塞がれていた唇が自由になると、そこから快楽の声が漏れた。
いくら嵐で多少は外が五月蝿いといえども、学園内は皆が寝静まっている時間だ。
素直に声を上げるのには抵抗があり、伊作はどうしても声を殺してしまう。
ゴシゴシと擦られる自身は、あっという間に膨張して勃ち上がり、先端から先走りを垂らした。
その滴を留三郎の舌が拭う。
「っつ…、う」
留三郎の薄い唇から覗く赤い舌が、自分の性器を弄る様子に耐えきれず腰を揺らした。
「…気持ち良いか、伊作?」
そう言って切れ長の目に上目で見上げられ、何度も肯定の為に頷いた。
自分の股の上で四つん這いになっている留三郎の、乱れた夜着の隙間から、股の間で下帯を押し上げているそれが見えた。
ああ、あれで突き上げられるのだ。
そう思うと、腰がズルリと重くなる。
「っん、…あっ」
唇が性器から離れると伊作は身体がうつ伏せになるよう、腕を引かれて促された。
腰を突きだすようにして、尻を持ち上げられる。
多分、来るな、という予感は的中して、香油を纏った指が後口を撫でて中に侵入してきた。
「ぁっ、…ああっ!」
予想はしていても、自分の身体を割り入ってくるその感触に声を上げる。
「あっ、はぁ、…んん」
中を擦る動きは徐々に円滑となり、ぐちゅぐちゅと湿った音を立てて、そこが留三郎の指を飲み込んでいく。
「はっ、もう、いいか?」
留三郎は下帯を外して、すっかり成長した天を仰ぐ自身を二、三度擦ると愛撫で濡れ解れたそこに押し当てた。
「いっ、……ぁっ」
指とは比べ物にならない押し入ってくるそれの圧力に、腕で己の体を支えきれずに上体を崩し顔を布団に押し付けた。
「んふっ、ううっ」
「…っ、もうちょい、力抜けって」
ゆっくりと自身を埋める留三郎の手が伊作の性器を擦った。
「っう、あぁ…」
先端の割れ目にその指先を食い込んだのに、伊作は思わず達してしまいそうになり、歯を食い縛り絶頂を耐えた。
留三郎は漸く自身の全てを狭いそこにおさめると、ゆっくりと、だが、伊作の呼吸が落ち着くのをまたずに腰を使い始めた。
「あっ、まだっ、っひ…」
ゆっくりとした腰使いは先の香油に、腸液や先走りで滑り、背後から伊作を攻め立てる動きは次第に速度を増していく。
留三郎のそれが大きく出入りする度に、腹の中を彼が打つのがわかった。
「ん゛ん゛っ、…いぃっ」
快楽に涙が零れ、目尻が濡れているのを敷き布で拭う。
だが、留三郎が内部のいい所に当たる度に身体が跳ねて、涙が次々と溢れる。
それまで背後から揺さぶっていた留三郎が、伊作の片足をグイッと持ち上げ、繋がる角度が変えられた。
「あ゛ぁっ、やぁあっ…」
留三郎と向き合う体位に引っくり返され、繋がったままの箇所の今までに感じた事の無い擦れ方に伊作の身体は震えた。
それまで、布団に押し付けていた顔が晒されたので、両手で覆い隠そうとするが、その手は掴まれて、敷布の上に留三郎の手で縫い付けられてしまう。
「やぁっ、あぁ…」
パンパンと肉のぶつかる音がする程、激しく腰を打ち付けられ、伊作は、訳がわからなくなった。
口を閉じる事も出来ずに、快楽の声だけを上げ続ける。
「あ゛ー、あ゛ー…」
「…すっげぇ声、たまんねぇ」
布団に押し当てられて、飲み込みきれなかった唾液で、口周りはベチャべチャだと分かっていたし、涙は相変わらず止まらないし、顔に力が入らない。
だから、自分の痴態にも、瞳は伏せれず、自分を激しく揺さ振る留三郎の欲情した顔をうっとりと見ているだけだ。
「うあっ、あ゛っ、あ゛」
限界が近い。
頭の中でチカチカと火花が散る。
留三郎の限界も近いのか、動きは一層激しくなる。
「いっ、あ゛ぁっ」
「ひっでぇ顔だな」
「…あ、ひっ」
「…俺以外にそんな顔、見せるなよ」
「みせる、はず、な…」
太股を掴まれ、留三郎の身体に引き寄せられると、内部のそれがビクリと脈を打った。
熱い迸りが体内に吐き出されたのを感じる。
「っんぐ、んんっ!!」
その熱さに、伊作も、欲を吐き出し己の腹を濡らした。




「あ゛ー、あ゛ー…」
すっかり掠れた声を、確かめるように何度か発してみた。
これは、ちょっと酷い。
まるで風邪でも引いたかのようだが、原因は明らかに先程の行為のせいだ。
明日までに治らなければ、勘の良い仙蔵辺りにからかわれる事になる。
「恥ずかしいなぁ…」
そう呟いて、既に隣で眠っている留三郎を見た。
声を掠れさせた原因の男は、穏やかに寝息を立てている。
「留三郎の馬鹿、助平」
しかし、嵐の夜もいいかな…、なんて思うのは…。
自分も対外、アレだなぁ…なんて。

伊作は、留三郎の隣に潜り込むと瞳を閉じた。


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10/01/27



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