保健室の開け放たれた窓から見えるのは、太陽の光が気持ち良いだろう青空。 外からは、放課後を楽しそうに遊ぶ下級生の声がしている。 こんな日に、当番とはいえ、保健室を任されるとは、ついてない。 【一滴たりとも】 「ふぁ…」 伊作は薬研を引く手を止めて、一つ欠伸をした。 授業の後、留三郎は裏山で文次郎と小平太と手合わせをすると言って、学園を出て行った。 手合わせといっても、留三郎と文次郎は授業中から何やら口喧嘩をしていたから、多分、喧嘩の延長の取っ組み合いだ。 そこに小平太がいるから余計に安心が出来ない。 むしろ、状況の悪化が不安だ。 よりによっての3人だ。 ああ、僕も行けたら良かったんだけど…等と悔やんでも、どうにもならない。 彼等が無傷とは言わないが、なるべく、少ない怪我で帰ってきてくれる事を祈るばかりだ。 伊作は薬研を引く手を止めた。 ふと廊下に人の気配がしたので、顔を上げる。 閉められた障子には、小柄な影が写っている。 「どうしたんだい?」 廊下で立ち止まったまま、入って来る様子のない影に伊作は話し掛けた。 「あっ、あの…」 聞こえてきたのは高い声だ。 くの一教室の生徒だとすぐにわかる。 「具合が悪いのかい?」 「いえ、あの…」 「大丈夫だから、入ってきたら?」 伊作のその言葉に少女がソッと障子を開いて、中を覗きこんでくる。 「今は誰もいないよ」 伊作がニコリと微笑みかけると安心したように、桃色の忍装束を纏った小さな体を、障子の隙間から滑り込ませてきた。 「今日は、新野先生は夕方までいらっしゃらないけど…」 「知っています」 「えっ?あっ、そっか。どこか調子が悪いのかい?」 「いえ…」 少女は俯く。 伊作は、座ったら?と手近に置かれた座布団を指し示した。 コクンと頷き、彼女は座布団に正座する。 その一挙一同がまるで小動物のようだなと、眺めながら伊作は思った。 「…実は、善法寺先輩に御相談したいことがあるんです」 「私に?なんだい?」 「…」 少女は俯いた顔の口元に右手を当て固まっている。 「お茶を出そうか?甘めの薬茶を出してあげる」 「あっ、あの…」 伊作が立ち上がったところで、ようやく彼女は顔を上げた。 頬を染め、眉を寄せた不安げな眼差しを浮かべて、口を開いた。 「…食満先輩の事、なのです」 「…え?」 「……ってゆう訳なんだよ」 「へぇ」 伊作が今日の医務室であった出来事を一通り説明するが、肝心の“食満先輩”からは全く持って気のない返事だ。 「へぇっ、て留三郎、ちゃんと考えてあげてる?」 「ああ、後で考えるよ」 「君に好意を寄せてるんだよ、彼女は」 「わかったよ、後でな!」 留三郎の適当な態度に、伊作は眉を寄せた。 「なんか、冷たいなぁ…」 「お前な」 留三郎は苛々とした声音を隠さずに、伊作の首筋に沈めていた顔を上げた。 その口元にはまだ出来たばかりの痛々しい傷があり、左の頬が少し腫れている。 案の定、放課後に文次郎に殴られて出来たものだ。 学園に帰ってきた時点では、鼻血も出ていたのだが、それはすぐに治まった。 ちなみに、無傷だったのは小平太だけである。 「今!まさに!しようとしていた所で、思い出したとばかりにそんな話を振られても困るんだよ!」 “そのくの一を、どうしろってんだ?”とブツブツ文句を言うが、留三郎の言うことは尤もである。 今、伊作は、留三郎の布団の上に組み敷かれているのだ。 伊作の思考回路はマイペースというかテンポが遅いというか、理解の範疇を盛大に超えるのは、留三郎の悩みの種だ。 「だって、今のうちに言っとかないと、忘れそうだし!」 「お前、ちょっと黙れって…」 言いながらも、伊作の胸元を探る手は止めない。 既に帯は結びが解かれて、するりと解けた合わせの奥、顕になった胸元に、唇を寄せる。 「あっ…」 胸の尖りに舌が這わせ、唇で噛み吸い付いた。 もう片方の尖りを指で摘み、尖端を擦ってやるだけで、すぐにそこは充血してプクッと立ち上がった。 「ぁっ、…んっ」 摘んだ尖りを強弱をつけて指先で弄られると、たまらずに腰が揺らいでしまう。 「…もう、腰動いてんのかよ?」 舌先で尖りを突きながら、留三郎が伊作を見上げる。 「…ぁっ、だってぇ…」 伊作は眉根を寄せて留三郎を見る。 薄い唇からのびた赤い濡れた舌が、チラチラと自分の胸の先を舐めている。 視覚と相成った快感が、腰を重く疼かせる。 「…んん、はっ、とめぇ…」 「ん?」 「…し、たも」 「何?」 「下も、触って…」 留三郎は口元にニヤリと厭らしい笑みを浮かべて、その手を下肢に伸ばす。 既に伊作の自身は勃ち上がり、尖端の割れ目からは蜜が零れていた。 「っ、ん…」 留三郎は、おもむろにそれを掴むと根本から一度扱き上げる。 尖端に溜まった雫で竿を濡らすと上下に擦る動きがスムーズになり、硬さが増した。 グシュグシュと濡れた音が、伊作の耳に届く。 「ぅっ、ん…、あっ」 熱い息を零しながら、伊作は敷布を掴んでいた手で留三郎の頬に触れた。 「…はぁっ、とめ」 熱に浮かされる瞳で彼を見つめ、指先で彼の唇をソッと撫でる。 留三郎はそれだけで伊作が何を求めているのかわかり、己の唇に触れる伊作の指をベロリと舐める。 「んっ…ふっ…」 まるで食らい付くかのように、留三郎に薄い唇に口を吸われる。 ぶつけるように合わされた唇から、口内に舌を差し入れるのは伊作が先だった。 留三郎の舌が、割り入ってきたそれに絡み付く。 「…んぁっ」 合わせた唇はそのままで、伊作は留三郎の下肢に手を伸ばした。 既にそこは硬度を持って勃ち上がっており、指先で撫でてやると、ビクリと反応を示した。 それを先程、自分がされたように扱き上げる。 ビクリビクリと震えるそれが、可愛く思えた。 裏側の筋に指を這わせ、括れを撫で、尖端の割れ目を愛撫する。 「ふっ…」 留三郎から漏れた鼻に抜けた息に、彼が感じているのだとわかり、伊作はさらにそこを弄ろうとした。 だが、逆に留三郎の手に自身を掴まれてしまう。 「ん…、あぁっ」 「今日は、随分、積極的だな」 離れた唇の変わりに、額を合わせると、留三郎の切れ長の目に捕らえられた。 その目に浮かんだ色濃い雄の色を見ると、もう堪らない気持ちが込み上げてくる。 「もう、…欲しい」 「もう?」 「はやくっ」 伊作は、留三郎の硬くなったそれを握る。 「わかったから、あんまり煽るな!」 留三郎は、伊作の両足を開かせ、後孔に潤滑油で濡らした指を宛てがうと、まずは、人差し指を飲み込ませる。 「っつ、ぅ」 そこが三本程指を飲み込めるようになると、指を引き抜き、留三郎は自身の先端をそこに擦り付けた。 「入れるからな」 「あっ、とめ、…ぁっ」 その圧迫感に伊作の背が仰け反ったが、留三郎は構わず伊作の腰を掴むと、半身を突き入れた。 「ああぁっ!…はっ」 「…はぁ、…全部、入った」 伊作は腰を掴んでいる留三郎の腕に手を伸ばした。 武道派と呼ばれる割には細身の、だが、しっかりと筋肉の付いた腕を握る。 留三郎が腰を浅く揺らし始めると、伊作の指に力が篭る。 「あっ」 浅く抉る動きは徐々に深く激しい物に変わる。 動きを激しくするにつれ留三郎の上体が下がり、その身体にのし掛かられる圧迫感を感じる。 その圧迫感にすら感じているのだと気付いたのは、もう大分前だ。 密着した留三郎の腰に伊作は足を絡めた。 「あっ、ぁっ、…い、いっ」 「っは、いさ…く」 肩から背中へと腕を回し、内部を打たれる衝撃に背中に爪を立てる。 留三郎が動く度に、その腹に自身が擦られ増す快感に嬌声を止める事が出来ない。 「…とめ、あっつい」 「お前も、熱いよ」 自分を見下ろす切れ長の鋭い目が細められる。 こんな熱の篭った目、他の誰にも見せたくない。 誰にも渡したくない。 「あっ、と、め…」 留三郎の頬に口付け、そこにねっとりと舌を這わせる。 見せるものか、渡すものか。 留三郎は、僕のものだ。 その身体も、心も 声も、吐息も 汗も、涙も、体液も 「ねっ、…中に、出して」 伊作の口元は、弧を描き歪んだ。 この男の一滴たりとも、他の誰にも渡すものか。 「どうするんだい?」 伊作は、留三郎の口元の傷に軟膏を塗り直しながら問いかけた。 今までの行為で、すっかり傷に塗った薬が落ちてしまったからだ。 「何がだよ?」 「くの一教室の彼女だよ」 留三郎は、彼女?と視線を斜め上に向ける。 行為の至る最中に伊作がした話を思い出すと、ああ、と眉根を寄せた。 「お前、しつこいな」 「しつこくないだろう?」 「だからさぁ…」 留三郎は、困ったように口を開いた。 「俺には、……お前がいるだろ?」 そう言って、顔を背けた留三郎の耳がほんのりと赤らんでいるのが見える。 今まであんな行為をしていたというのに、なんて初な反応をする男だろう。 伊作はフフと笑い、手元の軟膏の蓋をパチンと閉めた。 「うん。まぁ、そうだけどね」 あげないよ、誰にも。 この男は、僕のものだ。 --------------------- 09/09/28 back |