【甘い、甘い】


「甘い匂いがする」
「ああ、これだろ?」
留三郎はペロリと口から舌を出す。
舌の上には、小粒の星。
「金平糖かい?」
この男にしては珍しく、随分、可愛らしい菓子を口にしているなと伊作は首を傾げた。
「ああ、しんべヱに貰っちまった」
「ああ」
そういうことかと、納得した様子で伊作は笑みを浮かべた。
カリッと、金平糖を噛み砕く音がする。
「お前も食うか?」
「いや、留が貰ったのだから、留がお食べよ」
「遠慮すんなよ」
山程あるぜ?と留三郎は懐から、膨らんだ小袋を取り出す。
「じゃあ、折角だし一つ貰おうかな」
「おう!ほらよっ」
留三郎は手の中の小袋をポイッと伊作に向けて放った。
「ええっ?」
膨らんだ小袋は綺麗な弧を描いて、慌てた伊作が咄嗟に出した両手に着地した。
「おお、ナイスキャッチ!」
「食物を投げるな!」
伊作が袋を受け取った事に拍手をする留三郎を、伊作は睨め付けた。
「ちょっと?一個でいいよ」
「俺も一個でいいよ。あと、お前にやる。お前のが甘い物好きだろ?」
「…そうだけど」
でも、これは君が貰った物だろう?と伊作は、眉を寄せて、胡座をかく留三郎の隣に腰を下ろす。
「なんか、良いやつみたいだぜ?今まで食った事あるのと味が違う」
「なら、尚更じゃないか。こんな貰えない」
「とりあえず、食ってみろって」
断固とした留三郎に伊作は、小袋の口を開く。
中には、小さな星粒がつまっていた。
「実家から、沢山送られて来たんだと」
伊作は一粒、摘み上げた。
まだ明るい部屋の中でキラキラと光を受けて綺麗だ。
それを隣に座る男の口許に差し出す。
「なんだよ?」
「んっ」
眉間に皺を寄せて、伊作を見るが伊作は、んっと、言う声と共にただ微笑むだけだ。
口を開けろということだろう。
微笑む伊作の顔の魅力に負け、仕方なく口を開く。
舌の上に星粒が落とされる。
アイツの手を掴んで、指まで舐めてやれば良かった、畜生。
と思い立っても、時、既に遅し。
伊作の指は、もう自分の口許から離れている。
「美味しいかい?」
「ああ」
素っ気無く留三郎は応えた。
「じゃあ、一つ貰おうかな?」
伊作はそう言って片手を床につき、彼が反応するより早く、甘い香りのする口に吸い付いた。
「っ?」
予期していなかった出来事に目を見開く留三郎だが、伊作の舌は器用に口内に転がった金平糖を見付け出して自分の方へと奪ってしまう。
「ふっ…、ん」
金平糖を奪った伊作が唇を離そうとするが、留三郎の手が素早く伊作の後頭部に回って、それを阻止した。
「んん…」
伊作の口内の金平糖を追って、留三郎の舌が動き回る。
口付けたのは自分からだと言うのに、あっという間に形勢逆転で、伊作が翻弄される側になった。
金平糖が溶けて消えた頃、ようやく口付けを解く。
「ハッ…、ハァハァ」
伊作は向き合う留三郎の肩に顎を乗せて、必死で酸素を吸った。
「吹っ掛けたのは、お前だろ?」
「否定しないよ」
留三郎の横顔を、彼の肩から煽り見る。
ニヤニヤとした口元と、あれだけの口吸いをしても涼しいままの目元が見えた。
「美味かっただろ?」
「わかんないよ」
留三郎の舌の感触に必死で、金平糖の味どころではなかった。
いつもそうだ。
留三郎は口付けが上手い。
だから、いつも伊作は夢中になってしまう。
その舌の動きに、感触に、生温い生きた温度に。
「じゃあ、もう一個、食うか?」
肩に置かれた頭をヨシヨシと撫でながら、囁かれた誘いに、伊作は頬をその肩に摺り寄せた。

口の中に甘ったるい後味が残っているのを感じながら、伊作は目を閉じた。


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09/09/15



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