このクソ暑いのに、何やってんだ。


【熱帯夜】


「あっつい!」
伊作は、額に張り付いた前髪を掻き上げる。
季節は夏。
ムシムシと暑い夜だった。
着物を纏っていなくても、肌からはジワッと汗が滲む。
髪の結いが解けているので、長い癖毛が汗ばんだ首筋から、背中から顔に張り付いて気持ちが悪い。
布団の上にうつ伏せに寝転んでいた状態から、ゴロンと転がる。
すると、すぐ脇で同じように結いが解けた黒い髪を掻き上げて、団扇で自分に風を送る留三郎にぶつかる。
「あっちぃな…」
「だから、嫌だって言ったんだ」
「…最初だけだろ」
「最初に今日は暑いからしたくないって言った」
ただでさえ暑い夏の夜、先刻まで情交に及んでいた為に体温と室温をさらに上げてしまった。
行為の最中は気にならなかった温度が終わった途端にドッと押し寄せて、早々に互いの身体を離し今に至る。
「留三郎、障子開けてよ」
「いや、お前、下くらい隠せ」
しかし、そういう留三郎も夜着を肩に掛けただけで、下帯は巻いていない。
男2人が素っ裸の状態だ。
障子を開けるのは、どうにも憚られた。
今夜は、天気の良い月夜である。
夜間の自手練帰りの者が廊下を通ったら、流石に気まずい。
「暑い」
腰も痛いし…、と付け加えた伊作の恨しい視線から、留三郎は静かに目線を逸らしつつも、団扇の風向きを己から伊作に変更した。
「留三郎の身体からも、熱気を感じる…」
「そりゃ、そうだろうよ。俺もお前の身体から感じるぜ」
お互いに身体の熱が冷めてない状態で寄り添っているから、中々、体温が下がらないのだ。
「引っ付いてるから暑いんだ。自分の布団に戻る」
留三郎が手にしていた団扇を伊作に渡し、立ち上がろうとすると夜着の袖を引っ張られた。
「なんだよ?」
「もうちょっと居たら?こっちに」
「暑いんだろ?」
「暑いけど」
「俺の身体から、熱気が出てるんだろ?」
「留三郎も僕も生きてるからね、しょうがないよ」
「離れてた方が、少しは冷えるぞ」
「でも、寂しいから、もうちょっと一緒に居てよ」
伊作はチラリとだけ上目で留三郎を見やると、ヨイショと上体を起こす。
結いが解けた髪の毛を、片方の肩に纏めて流す。
汗ばんだ細い首筋が顕わになり、首筋をツーッと汗の玉が滑り落ちる。
団扇で己に向かい風を仰ぐ伊作が目を細めた。
ああ、だから、コイツは性質が悪いんだ。
「…お前が悪い」
「えっ?」
留三郎はボソリと呟くと、再び伊作を布団に組み敷いた。
手荒に布団に押し付けられた伊作の首筋に、唇と舌が這う感触がする。
「あっ、とめ…、っ!」
先程まで交じり合っていた身体は常より感じやすく、留三郎の片手がさっと身体を線に沿って撫でただけで身体は反った。
拒否の為に押し退けようと汗ばんだ肩に置いた手は、結局は指に力を込め快感を訴える為の動きをしてしまう。
身体を撫でた手は股の間に滑り込み、留三郎の節のしっかりとした長い指が内股を撫でる。
「…やだって、あっ」
抗議の声は聞き入れられず首筋に軽く歯を立てられ、さらに熱を煽られる。
「…しょっぱいな」
首筋から唇を離すと可笑しそうに留三郎は言って、伊作の唇を吸った。
歯列を割り逃げる舌を絡め捕り上あごを舐めてやると、肩に置かれていた伊作の腕は留三郎の後頭部を回り、しっかりと彼の頭を抱え込むような形になっていた。
留三郎の汗の臭いに、酷く興奮している事に伊作は気付く。
「ん…、あっ」
ピチャピチャと水音を立て、互いに舌を絡める事に夢中になる。
唇を放すと荒くなった息のまま、離れていく唇を名残惜しげに伊作は見た。
留三郎は吸われて紅く腫れた伊作の唇を指で拭うと、頭を覆う腕を外すと上体を起こした。
「伊作」
「あ、やだっ…」
その抗議より早く膝裏に手をやり、両足を持ち上げて開かせる。
硬さを持って勃ち上がった伊作の中心は既に先端からの先走りで濡れていた。
「やだやだ言っても、やる気満々だな」
「…っ仕方ないだろ、だって…っ、あぁっ!」
伊作が言葉を紡ぎ終わる前に、濡れた先端を舌が這う。
「んっ、あっ…」
「…『だって』、なんだよ?」
「はぁっ…、んっ…」
「なぁ、伊作?」
留三郎は宙に浮かしていた伊作の両足を肩に乗せると、空いた片手で伊作の中心を擦りあげてやる。
伊作自身の先走りと手が酷く汗で濡れているのもあり、かなり滑りが良い。
「…ぅあっ、とめぇ」
「『だって』なに?言ってみろよ」
「あっ、だってぇ、っん…」
「だって?」
「…ふっ、…きもち…、ぃっ…」
口許に手を当て快楽に眉根を寄せた顔で伊作は留三郎を見た。
自分の下半身が一気に重くなったのを留三郎は感じる。
「…ヤバい」
「…っん?」
伊作の自身から手を離し双丘を左右に開くと、先程まで、留三郎を飲み込んでいた箇所の入口がパクパクと収縮していた。
先に使った潤滑油と先走りでしっかりと濡れているそこに、人差し指と中指を差し入れた。
「あっ…、ぁっ」
「悪い、我慢出来ない」
差し入れた指は、なんなく奥まで入る。
続けて2本の指が簡単に入るのを確認すると、留三郎は伊作の後孔に起立した自身を宛てがい一気に貫いた。
「あっ、っつぅ…」
「本当、性質が悪いんだよ!お前」
奥まで自身を捩込むと伊作の足を肩に担いだままで、留三郎は彼の腰を掴む。
「あぁっ、はっ、あっ」
「いさ…くっ、はっ…」
腰が動いてしまわないよう固定され、激しく突き上げられる。
「あっ、あっ、とめぇ…」
そこからは、もう互いの名を呼び合う以外は、興奮を煽るだけの意味を持たない声しか上がらなくなった。





「あっつい」
伊作は布団に仰向けに寝込ろんで、額に張り付いた前髪を掻き上げて、再び言った。
「…」
留三郎は、無言で伊作に団扇で風を送っている。
「湯船に浸かりたい」
「もう、湯が沸いてねぇよ」
「水浴びしたい」
「じゃあ、井戸行くか?」
その提案に、伊作はゴロリと留三郎に背中を向けた。
「水張った桶とか、部屋にあれば便利なのに…」
「おまえ…」
「腰が痛くて動けないなぁ」
「…」
「なんでだと思う、留三郎?」

このあと、留三郎が桶を片手に、井戸まで走ったのは言うまでもない。


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09/08/19



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