かわいいひとたち



彼は彼女が嫌いだ。
そして彼女もまた、彼が嫌いだ。
だがしかし、おそらく僕は互いにそういうものだと思い込んでいるだけなのだと踏んでいる。

「いつ見てもあの二人、お似合いよね」
「妬けちゃうけど仕方がないわ」
「校内一の美男美女だもんなあ」
「文句のつけようがないよ」

さらさらと風に流れる黒髪は艶やかで、そこからワントーン落ちた瞳はとても涼しげに辺りを見る。軽く着崩されたタキシードの首筋から漂う色気に、何人の女子生徒がくらりと眩暈を覚えただろうか。校内ランキング抱かれたい男三年連続一位を死守するのはグリフィンドール寮所属、シリウス・ブラック。まさにその男以外にはありえない。そして僕の悪友でありライバルであり、よき理解者だ。

一方月の光を思い浮かばせるかのようなシルバーブロンドを背に緩やかに侍らせて、伏せがちな甘い濃紺の瞳には誰もが魅了される。彼女から香る麗らかな春に咲く花の香とその身体のラインに一体何人の男子生徒が振り返っただろうか。校内ランキング抱きたい女これまた三年連続一位を死守するのは同じくグリフィンドール寮所属、アレット・オスマン。こちらも彼女以外にはありえない。と言っても僕にとっては彼女の親友であるリリー・エヴァンスが何をおいても1番であるが。

「おい、それ以上こっちに寄るなよ」
「あら、照れているの?意外と可愛いところもあるじゃあない、まぁ興味はないけれど」

初夏の日差しに照らされて、煌びやかに輝くのは湖面とホグワーツきっての美貌を持つこの二人。キング&クイーンの渾名も伊達じゃあない。現在は校内新聞に載せるドレスアップ写真を絶賛撮影中である。
そして彼らの友人である僕はそれを楽しく見学している。

「アレット嬢、もう少し視線をこちらに貰えますかー?あとシリウス君はアレット嬢の肩を抱いていただけるととても絵になります」

カメラマンの声にシリウスの眉間がピクリと動いた。爽やかな風が辺りを包む良い天気だというのに、彼の瞳の奥は全くもって晴れていない。寧ろ怒りで雷がなりそうだ。

「ですって。リリーが勧めてくれたけれど、やっぱりこんな肩の出る服にしなければよかったわ」
「チッ、手袋つけてくるべきだった」

役者としてはアレットの方が上である。是非そうして頂きたかった、と笑う表情はとてもじゃないが愛する人へと向けるもの以外には見えないほどに美しい。そんな眩しい笑顔を前にシリウスの口角は明らかに引き攣っている。

「あのーシリウス君、できればもう少し笑ってもらえませんか?……あぁ、いいですね。本当に素敵です!」

やけくそだと言わんばかりに目の前で笑む悪友は、なんとも痛々しいがそんな彼の表情は滅多に見られないため僕はしっかりとこの目に焼き付けておこうと思う。あ、目があった。助けてくれってそれは流石の僕にも難しい話だなぁ。そんな時、ふっと辺りに花が舞いそうなほど軽やかな動きでアレットがシリウスの耳元で囁いた。

「そう言えば知っていらして?貴方、表向きじゃ抱かれたい男ナンバーワンなんて言われてるのかもしれないけれど、彼氏にしたくない男もナンバーワンのようよ?相変わらず女の子取っ替え引っ替えして、よくもまぁ飽きないわねえ」


――この万年発情犬


瞬時にシリウスの顔が明らかに凍りつく。普通の男子学生ならあの距離で彼女に囁かれた時点で沸騰するであろう。が、しかしそこは校内で彼女の色気に耐性がある数少ない人物にして、校内一の色男であり我が友。すっと呼吸するように艶のある笑みを浮かべて、そんな彼女に挑戦的に向かい合う。
あーあ、シリウスってば変なスイッチ入っちゃったよ。
その手で細い銀糸をひと束救い唇に寄せた後、さらさらと風に流すように手放していく。少しでも二人に近付きたいと集まった野次馬たちが二人の間に流れる雰囲気に息を飲む音すら聞こえるようだった。勿論僕には天敵同士の彼らが笑顔と言う名の仮面を被り、ただただ威嚇をし合っているようにしか見えないけれど。

「お前の方こそ、その辺の奴らに思わせぶりな態度とっておきながら、ちょっと迫っただけで容赦なく石化の呪文をかけてきやがるって男どもの中じゃ有名だぜ?」


――ったくメデューサかよ


会話内容はさておき、互いに見つめ合いながら不敵な笑みを浮かべる二人に集まる熱のこもった視線に、僕は思わず苦笑してしまう。
同族嫌悪、という言葉が咄嗟に頭に浮かんだ。家柄よし、見た目よし、頭もよし、ただし性格には少々、いやわりと難あり。結局のところが似た者同士であるということだ。

「社交辞令と好意の違いもわからないような頭の足りない殿方には興味がなくてよ?」
「いつか刺されろ」
「その言葉、そっくりそのままお返しするわ」
「いやぁ!有難うございます!」
「実にいい写真が撮れましたよ!」
「本当にお二人とも素敵すぎます!」

僕個人の意見としては、いつ杖が出てきてもおかしくない勢いであるというのに、場の空気が読めなかったのか、上辺だけでも写真としては本当に良いものが取れたのか、カメラを握るレイブンクローの上級生はゆっくりと頭を下げた。そしてあろうことか二人に握手さえ求めている。


「「それは良かった」」


第三者の介入にパッと表情を変えた二人はまるで今までの出来事がなかったかのように自然に距離を取ったあと、ほんの一瞬だけ視線を交わしまるで汚いものでも無理やり見せられたかのように吐息する。そして同時に舌打ち。

行動パターンは比較的同じ。
売り言葉に買い言葉。
嫌よ嫌よも好きのうち。
好きな子ほど虐めたくなる。

早い話がそういうことだろう。
互いに本当に興味がなければ、相手に何を言われても動じずにいられるはずだ。
その辺を踏まえても、キッカケさえあれば彼らは自身達が思っているよりも親しくなれるだろうとも、僕は密かに思っている。

見た目の割には意外と子供

「貴方みたいに自尊心の塊のような男が隣にいると本当にストレスが溜まるわ」
「微笑んでりゃ何しても許されると思ってるような頭の軽い女でもストレスって感じるんだな」
「あらごめんなさい?貴方の好みは頭なんかよりもずうっとお尻が軽い女ですものねえ」
「……ッ、てめぇ」
「シリウス、まぁまぁその辺で」

うん、残念ながらダブルデートはまだ遠いなぁ。

あとがき+α

入学当初はそうでもなくて、むしろお互いに外見や家柄で浮いているもんだから変な親近感とか感じていたはずなのに、天邪鬼なシリウスが些細な噂に過剰反応して結果、仲違い。嫌いだと思ってるだけで実際はそうでもないくせに売り言葉に買い言葉でどんどんヒートアップしていく関係性の二人。笑
20180624



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