数多の星が煌めく宇宙を静かに漂っていた。瞼を閉じれば、昨日のことのように思い出す。耳を劈く爆音と、目に刺さる閃光。そして野花を手折るように、いとも簡単に散る命。それはまるで、この広く続く暗闇に儚くも呑まれていくようで……


涙で世界は救えない 05



「全く……撃墜されたいのか」

無機質な声がアルトの直ぐそばを通り過ぎた。そして、呆れたように溢れる溜息に言葉が出ず、思わず足が止まる。それに合わせて数歩先に佇んだ背中がどこか困ったように肩を落とす。
定期的に行われる周辺宙域の偵察を終え、仮設された軍本部へと帰還してすぐのことだった。

「確かにバジュラ達との戦争は終わった。だがいつ何時、また別の何かが現れるやしれない。集中できないのなら、今飛ぶのはやめておけ」
「悪い……」
「別に貴様を責めるつもりはないが……せめて考え事は足がしっかりと地面についている時にしろ」
左足でトントン、と地面を打つ仕草をして見せる後ろ姿に、小さく絞り出すような笑い声が響いた。


「貴様は心が翼に現れやすいからな」


振り返ったブレラのぎこちない笑みに、アルトはそっと目を細める。彼もまた、前を向いて進もうと変わり始めているのだろう。一部の邪な人類の呪縛から解き放たれ、大切なものを見つけて……護ろうとしている。
良くも悪くも素直な彼の言葉とその冷ややかな空気を嫌う者もいる。けれど、それも向き合えば彼なりの優しさであったり、励ましであったりするのだ。一度は敵対した自分達だからこそ、どこか懐かしむように火花を散らせたあの宇宙を思い出しては、少し表情の柔らかくなったその顔を見て安心する。
ランカのおかげだろうな。心の中で呟けば、屈託のないあの笑顔に自分まで心が穏やかになるのを感じた。

「気をつけるよ」
「ああ。張り合える奴がいないのも……退屈するものだ」
「それは褒められていると思っていいんだよな?」
遠慮がちな2人分の笑い声が、無機質なリノリウムの床を伝って響く。それを合図にするように、また静かにアルトとブレラは歩き出した。

20170320
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