1.寂しさだけ花びらき
つなぎとめて / 切甘 / ○マ / コンラート


「どうかした?」
そう言って亜麻色の髪を耳にかけるその仕草が記憶の中の彼女に酷く似ていて泣きたくなった。
手元の雑誌にチラリと視線を投げた後、少女は仕方がないなあと言う風に其れを閉じて此方へと歩み寄ってくる。
まるで南国の海をそのまま映したようなエメラルドの瞳がジッと自分を見つめる。
全てを見透かされてしまいそうで目を伏せれば額に当てられた掌がひんやりと心地好い。
確か、彼女の体温も低かったっけ。
身体を重ねる度に、熱を孕んだ身体をまるで冷ますみたいに撫でられては焦らされるような錯覚に陥って……声を枯らせて自分の名を呼ぶその姿がたまらなく愛しかった。

「熱はないみたい」
ソプラノと呼ぶには些か低さの残る声が囁いた。
ベッドで横になったら?
疲れ、抜けてないんだよきっと。
甘く優しいその声までもが嫌でも彼女を思い出させて、心が苦しい。
息が出来ない。
酸素が、足りない。


「――ねえ、父さんってば」


目頭がじんわりと熱くなった。
とんだ置き土産してこの世を去った彼女を、忌々しく思いながらも忘れ去ることができない自分が滑稽で仕方がない。
これも運命なのだと彼女は笑っているのだろうか。
だとしたら……



「ずるいヒトだよ、君の母上は」



抱き寄せた身体は思っていたより少し小さくて、戸惑うように自分を呼んだ声は今にも擦りきれそうだった。
「俺と君を残して、きっとあの世で笑ってるんだ。飛び切りの笑顔でね」
か細い身体を抱き締めて、彼女と同じ臭いのする首筋に唇を寄せる。
「……、父さん」
「どうして、一人で……俺を……置いて、いかないで……」
震えていたのは自分の身体で、収まりそうもなかった。
呼吸が乱れてもう全部がぐちゃぐちゃで、前も見えない。
記憶に残る笑顔の彼女が憎い、憎い、愛しい。

「……っ独りにしないでくれ」

不器用に髪を撫でる手付きだけが唯一、彼女とこの子との相違点なのだろう。
そして。
幼子をあやすようにやんわりと、細い指先が髪を透く。
泣かないで。
まるでまじないのように、心が安らぐその台詞に、自分は今日も生きていられるのだ。




◎あとがき◎
誰だよMF連載終わってから始動するって言ったの(お前だ)
ということで、なんか久々に○マの連載のプロットとか見ててカッとなって出来た産物。
構成というか設定はものすごく気に入っています。

次男と人間の間に出来た少女のお話。
パパって呼ばせるべきかすごく悩んだのだけれどね←
魔族の血は1/4なので成長は人間のそれとほぼ一緒。
日に日に故人の母親に似てくる少女にかつての恋人を想い続ける次男ご乱心、的な。
でも大事な娘を置いてゆくわけにもいかず…

うちの次男は意地悪だけどすっげー気障ででも甘えたな感じ。
ガリガリの角砂糖みたいなセリフとか平気で吐くけど、背筋が寒くなるような悍ましいこともサラッと言っちゃう。
だから精神的に弱くて肉体的に強いヒロインと、精神的に大人で次男の糖分たっぷりな科白も軽く流せちゃうようなヒロインの二択になってしまうわけですね。
言葉で嬲るような次男には前者、甘えたの次男には後者。
もっとレパートリー増やしたいなぁ、と思っていたところのコレです(笑)

では、お題提供して下さった方、有難う御座いました!!!


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