らしくいきましょう。

今日の池袋の街は平和だ。
昨日まであった通行標識がいくつか姿を消していた気がしないでもないが、自販機の方はどれひとつ姿を消すことなくそこにあるのだから、少なくとも昨日よりは平和に違いない。
ほら、白鳩まで飛んでいる。
まさに平和の象徴ラブアンドピース。

「ウワアァァァァァ!」
「待ちやがれテメェらァ゙ァ゙ァ゙!」

いや……、訂正。
今日も激しくデッドオアアライヴだった。

「おい、誰だよ静雄怒らせたの」
「見たかよ!今自販機吹っ飛んだぜ!?」
「あーアイツ泡吹いてるぞ」
歩く喧嘩人形こと、池袋で最強であり最凶な男の称号を得た人物、その名も平和島静雄。
全く名前負けもいいとこだ。
横を滑り抜けた自販機が作った風に髪が浚われて、オマケにピアスがシャランと揺れた。

「しーずっおくーんっ」
「あァ゙!?」
「あァ゙!?じゃねーよ、あァ゙!?じゃ!!」
「ッせーな。黙ってろ」

今まさにその身の脇にあるガードレールを引き抜かんとばかりに掴んだ静雄は、ガンを飛ばす上に舌打ちという何とも腹の立つオプションまで付けてこちらに体を向けた。
辺りは一瞬にして静まり返る。
そして小さく囁かれるのは「あの女の子は一体何者なのか」と言う疑問。
ちょっぴり英雄気分に浸っていたのも束の間、退きやがれ、といつの間にか目の前には仁王立ちで立つ静雄の姿。
ピクリと苛立たしげにヒクつく眉の動きまで見てとれる至近距離だ。

「よしホラ良い子良い子」

咄嗟に少し伸びをして傷んだ金髪を撫でてやれば、案の定拳が振り上げられる。
だてに昔からこの関係を続けている訳じゃない。
瞬時に体が反応したのはもう経験そのもので、危ないわね。と顔をしかめた。

「顔に傷でも付いたらどうしてくれるの」
「知ったこっちゃねぇよ」
「俺が嫁に貰ってやるよ、くらい言えよバカ」
その言葉と共に目一杯の力を込めて右ストレートを繰り出す。
あっさりと交わされるがそんなものは計算の内だった。

「そんなだから静雄には彼女が出来ないのよ」
「よけーなお世話だっつんだよ!」

ヒクリとその額に青筋が浮かんだのを確認すれば、対照的に自分の頬の筋肉は上がる。

いつものようにすっかり此方のペースに持ち込んだ会話。
ふざけたそのやり取りの中に微かな本音を隠すように混ぜ込むことが卑怯だということは分かっていた。
それでも面と向かって自分が静雄に対して好意を持っていることを話せば、今の関係が崩れてしまうのではないかと思うと素直になれなかった。

今のこの、ぬるま湯に浸かったような、付かず離れずのそんな間柄でいられれば良いだなんて、思っていた。
だから自分にとっては限りなくひねくれた本音を隠した冗談のつもりだった。

「しょーがないからアタシが婿に貰ってやるよ」

バカにしてんのかお前は。
そう言って不敵に笑う静雄を予想するのも簡単だったし、次の瞬間には自販機でも飛んでくるんじゃないか、とか思っていた。
ところが、だ。

「そんなことばっか言ってっから手前も男が出来ねぇんだよ」

少しだけ目を細めて遠目にこちらを見ながらそう言う静雄。
完全にバカにされているであろうことは瞬時に理解できた。
「――ッ、一緒にしないでよ。アタシは出来ないんじゃなくて作らないんですーッ」
なんでかって、んなもんアンタに心底惚れてるからだよ!
なんて言葉は死んでも言えないけれど、こればっかりはどこまでも本音である。
アァ自分自身にはこんなにも素直になれるっていうのに。

「ホント可愛くねぇヤツ」

半ば呆れたようにそう呟いた静雄はすっかり戦意喪失してしまったようで、慣れた手付きで煙草に火を点けていた。
気だるげにふぅ、と紫煙を燻らせるその姿に柄にもなく見惚れてしまうものの「良い女はいつまでも可愛いなんて言葉じゃ喜ばないのよ」なんて強がりを吐き捨てる。

「良い女は、だろ?」
「……何が言いたいのかな?静雄クン」
分かってんだろーが、とイヤらしく笑ってみせた静雄には一気に苛立ちの感情が芽生える。
それと同時に結局何時だって本音を隠すだけで、少しだって彼との距離を埋められない自分自身に自己嫌悪した。

「静雄のバーカッ!大ッ嫌い!」

吐き出した暴言とは裏腹にジクリと心が痛みを訴える。
目の奥がツンとして思わず顔を伏せた。
あー嫌だ嫌だ。
こんなキャラじゃないのに。

「バカはドッチだバーカ」

良い女なんて手前の柄じゃねェだろーが。
ずしりと頭が重くなって、少し乱暴に髪を撫でる手が憎い。
その上、馬鹿力で頭潰さないでよね。と、こんなときですら皮肉しか溢せない自分が嫌いになりそうだったし、どこでどう間違えばこんな可愛げのない女に育つ結果に至ったのだろうか、とも思った。
だけど、

「そうそう、そのが手前ッポイわ」

そう言って笑う静雄に惚れたことだけは間違いなんかじゃなかったと、少しだけ救われた気がした。





***

マキ様、リクエストどうも有難う御座いました!
男前なヒロインをご所望されていたにも関わらず、終盤の彼女がやや乙女モードに入っております、すみません(汗)
ご期待に沿えているかはわかりませんが、愛を込めて贈らせて頂きます:3

6/23 高屋


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