無限大カラーズ

見上げた空は雲ひとつない快晴。
まぁそう言う予報になっていたことを見越した上で、今日と言う日を指定したわけだが、それでもここまで気持ち良く晴れ渡る空を見るとそこそこ自分の心に掛かった靄も薄らぐような気がした。
僅かに視線をずらせればやけにゆっくりと針を動かす時計が目に入り、約束の時間までたっぷり20分あることを教えてくれる。
女を待たせるのは趣味じゃない。
必然的に待ち合わせには早めに行く方だった。
だが、そんな時計から視線を下ろした先には、何気なく空を見上げるその姿があった。

「アンジュ」
ミハエルは柔らかに吹く風にその名をそっと乗せた。
ミルキークリームのワンピースに明るい茶色のジャケットを羽織ったアンジュの私服姿に、今日が休日であることを再認識する。
頼むから緊急召集の連絡を寄越してくれるなよ、と内心上司の顔を思い浮かべながら「待った?」だなんてありがちなセリフに歯を溢した。

「少し早く出過ぎたわ」
「それって俺とのデートが楽しみだったから、とか自惚れてもいい?」
「お好きにどうぞ」
甘口な冗談もサラリと流れるように交わされてしまうが、ミハエルはそれに特別不服を感じることはなかった。
いつだってアンジュはこんな感じだ。
自分の冗談も、アルトの本気も、正面で受け取ろうとはしない。
真っ直ぐに前を向いているようで、視線だけはいつも変わらず鈍い色のコンクリートを見つめている、そんな感じだった。
そして、それはどこか自分に似ているような、ミハエルはそんな気がしてならなかった。



「それで?今日は何処へ連れていってくれるのかしら」
「行きたいところは?」
ミハエルの中ではデートコースなんてものはほぼ確定していたが、そうやって相手の希望を尋ねることを忘れない辺り慣れきっている。
特には、というアンジュの返答にも「ならオススメのカフェがあるから、そこまで少し歩こう」と空かさず道を促している。

休日のわりには人気の少ない陽気な並木道を歩きながら、他愛のない話で花を咲かせる。
ほぼ毎日顔を会わせてはいても、話題というものは尽きないようで、辿り着いたカフェで頼んだアイスコーヒーがいやに美味しく感じた。

「何人目なのかしら?」
「何が?」
ストローでアイスティーのグラスをかき混ぜていたアンジュが不意に投げた質問にミハエルは首を傾げる。
「ここからの景色が結構気に入っててさ。アイスティーならストレートがオススメかな。ここのザッハーは甘過ぎなくて美味しいよ」

「参ったなぁ……」
「私の予想じゃ少なくて3人ね」

全て店に入ってからの自分のセリフを立て並べられ、ミハエルはそっと頬を掻いた。
デートをする相手の女性達に対する気遣いというものは彼にとって一種の癖のようなものである。
だが今回のアンジュに対してそれは裏目に出た。
たまにそういうカマをかけるようなことをする女性もいたけれど、大抵は笑って適当に相手の気に入りそうな甘言で誤魔化せる程度。
しかしながら今ミハエルの目の前にいるのは自分という男の性癖を熟知している少女だ。
素直に4人かな、と笑いかければ「ニアピンね」と妙に楽しげにアンジュは笑った。

多分、この笑顔の為に生きていて良かった、と思える男は決して少なくはないと思う。
普段の造り笑い、とは言わないがどこか機械的な笑みとは違った……
肩の力が抜けたような笑顔。
何となく誘って良かったと心が安らぐのを感じていた。
ここのところ、調子が悪そうに見えたせいかアンジュのそんなプライベートの余裕には余計に安心する。

望んだ空に一番近い場所いるはずなのに一番遠くでそれを感じていなければいけない彼女の心情を自分に理解することは、恐らく不可能だ。
悔しいが、アルトの方がよっぽどアンジュの気持ちを理解してやれるのだろう。
それでもアイツはバカだから、気付かない内にアンジュを傷付けたり、悩ませたりする。
だから自分は友人として、それを除いてやることが出来れば、と思うのだ。
僅かに反らせた視線の先の、何の飾り気もないコンクリートに雑草でもなんでも、少しの色を足してやれれば、この世界に満ちた色んな色をアンジュが知られる切っ掛けになるんじゃないか、と。

ただ、それを知っていながら目を背けた自分と彼女は……やはり少し違う人間だったのだと思う。





***

胡桃様、リクエストどうも有難う御座いました!
連載ヒロインとミハエルのデート、と言うことで連載の息抜きみたいな感じで実に楽しく書かせて頂きましたv
ご所望に叶っているかは解りませんが、愛を込めて贈らせて頂きます:>

4/12 高屋


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