リスタート

――ねぇねぇ!
――折原君と平和島静雄がさ
――喧嘩してるってー


内心またかよ、と思ったのは言うまでもない。
全くあの二人も飽きないよなぁ、と由梨子が見つめた先のグラウンドには、授業で使うサッカーボールの入れられていた鉄籠を軽く持ち上げた平和島静雄の姿。
ガッチガチの筋肉体質って訳でもない彼のあの身体の何処にそんな力があるのか、由梨子は日々、疑問に思っていた。
そして、ニヒルに口元を緩めてそんな彼を挑発する折原臨也こと腐れ縁で幼馴染で目の上のタンコブ的存在のその男がどうしてこう毎度毎度彼の非常識な暴力に大した怪我を負わされることもなく無事帰還するのかも、それ同等に疑問だった。
「一度くらい骨でも折られれば良いのに」
「そしたら私が熱心に看病してあげるのに、って?」
「岸谷新羅。ちょっこっちに来なさい。大丈夫、ユーキャンフライ。人間信じれば何でも出来る」
女の子みたいに細い腕を引いて開け放たれた窓の外に彼の身体を由梨子が誘導してやれば、彼は慌てたように冗談だから!と足を踏ん張った。

「そんなに遠慮しなくても、この程度の高さなら打撲程度よ」
臨也や平和島静雄なんかは無傷でしょうけどね、と付け足しながら由梨子がグランドに視線を戻せば逃走を図った臨也を追いかける金髪の野獣の背中が見える。
午後の授業は出ないって訳か、荷物一つない由梨子の隣の席に腰掛けた岸谷新羅は「まぁ臨也が鞄持って登校してるとこなんて見たこともないけど」と乾いた笑みを溢す。
「所持品は財布と携帯があれば十分だって」
「学生の本業無視だもんなぁ、臨也は」
「貴方だって変わらないくせに、常識人気取らないでよ」
由梨子が彼に首のない同居人がいる話を臨也から聞かされたは極最近のことだった。
最初はついに臨也が変な妄想癖でも習得してしまったのかとあきれ返った由梨子だったが、三日前に当の本人を紹介されてしまっては信じる他なかった。
そして、本当にあの男の側にいると日常への飽きというものに縁がなくなると由梨子はつくづく実感していた。

「あぁそう言えば、セルティに会ったんだって?」
彼女、美人でしょ。などとだらしなく鼻の下を伸ばす岸谷新羅の肩越しに見つけた見慣れた学ランと赤。
帰ってきた、と不意に呟いた由梨子に岸谷新羅はくるりと状態を捻った。
「いやー本当シズちゃんってバカだよねぇ」
校門を出て、通りを折れた瞬間に塀を越えて校内に戻った自分に気付く事無く見失ったと池袋の街に駆け出していったその背中を見てるのは本当に滑稽だった、と馬鹿笑いをしながら教室の中に入ってきた臨也。
「鬼ごっこなんてもんはスタート地点が一番安全なもんなんだよ」
「本当にそういうものかしら」
ポケットで静かにしていた携帯を取り出しながら、由梨子は僅かに残ったフルーツ牛乳のストローを銜えた。
ピピピ、と携帯を弄り始めたその姿を特に気にするでもなく臨也は窓枠に腰掛けて伸びをする。
「シズちゃんのせいでお昼食べ損ねた。購買でも行って来るかな」
「あー多分今日は昼食抜きよ、臨也」
は?と首を傾げた臨也に、先ほど自分が弄くっていた携帯の画面を見せ付ける。

『臨也なら学校に戻ってる』

数秒後には臨也を呼ぶ聞きなれた怒声。
「由梨子さ、なんでシズちゃんのアドレス知ってんのさ」
「こういうときの為にこの間聞いておいたの。楽しそうだし」
パタンと由梨子の携帯を閉じて自分のポケットにしまった臨也は「没収」と窓の外に顔を出す。
タイミングよく開いた教室の扉の先には、肩を震わせて怒りを示す静雄の姿。
それを確認した臨也は由梨子の思惑通り、何の躊躇いもなく空へ飛び出した。
ギョッと目を見開いた新羅に、チッと大きく舌打ちをして見せた静雄。
窓の外、地面に着地した臨也は

「ほら、やっぱり無傷」
少し残念そうに呟く由梨子と再開した命がけの鬼ごっこに新羅は苦笑した。





***

蒼里様、リクエストどうも有難う御座いました!
ご所望に叶っているかは分かりませんが、愛を込めて贈らせて頂きます:D
遅くなって申し訳御座いません!

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