雨、雨





雨が降り出した。それは大地の恵みか、それとも心の涙か。
べつに、なんてことないんだ。あの男が他の誰かと一緒のベッドにいたって、儂には何一つ関係が無いんだ。なのに、どうして…


部屋の前、ノックをしても返事が無かったので、不躾ながら勝手にドアを開けた。鍵が掛かっていないのをいいことに、部屋の中へ進んだ。そこにいたのは、ベッドで善がる女と、何かを囁くゴルドーだった。
持っていた書類の束はその場に落ちて散らばった。バサバサという音を聞いて振り返ったゴルドーと目が合い、いたたまれなくなり部屋を飛び出した。何かを言われた気がしたが、なにも耳に入らない。

嘘だったのだ。儂に囁くように「愛してる」と言ったのは嘘だったのだ。その言葉に心が躍るような気持ちになったのは、なんだった?
一人で浮かれていた。絶対に離れない存在だと思っていた。なのに、こうも簡単に奴は儂から離れて行く。年が離れているんだ、当たり前だろ。

なぜ涙が止まらない?

きっとすれ違う人に妙な顔をされているに違いない。
これからどこへ行く気なんだ?儂の居場所はどこにある?あいつの腕の中は、儂の場所ではなかったのか?涙で前がよく見えない。


「アインシュ!」


後ろから聞こえたのはゴルドーの声だった。振り返ってはいけない。立ち止まってはいけない。走らなければいけない。こんな顔、見られたくない。


「アインシュ、待てって!」


立ち止まってはいけないのに、この先は行き止まりだった。今度、自分専用の抜け穴を作ろう。儂のサイズに合わせれば、チートだって通れるはずだ。
壁にそっと近づく。顔をゴルドーに見られないように。


「はっ、やっと追いつめたぞ…なんで逃げるんだよ」

「……」

「なぁ、怒るなって」

「触るな」

「じゃあ、お前はどうしてほしい」


どうしてほしい、なんて、なんでそんなことを聞くのだ。どうもしてほしくない。触れるな。儂の心はどうなるんだ。


「悪い、」

「……」

「お前が、振り向いてくれねーから、」

「…んなの、知らなっ、お前はっ、儂の心、を、弄んだんだ、」

「違う、俺は本当にお前を!」

「うそつき、本当なら、なんで、無理にでも手に入れない」

「本気だからに決まってるだろ」

「そんなの、勝手すぎる、」


涙が頬を伝って床に落ちる。小さな水たまりが出来るくらい、涙が止まらない。お前がほおってくれていれば、この気持ちに気づくことはなかった。こんなに苦しむことはなかった。なんで、お前はこうも儂の心を乱すのだ。お前なんて、


「俺のこと、好きって言えよ」


後ろから抱きしめられる。こんな優しく抱くなんて、卑怯だ。さっきまで女を抱いていたこの体で。


「き、らい…」


前に回された手に自分の右手をそっと添えた。優しく左手で包まれる。天邪鬼の自分の想いは伝わってくれたらしい。

大地の恵みはまだ止む事を知らない。だが、心の雨は、少しづつ晴れてきていた。






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このあと、ゴルドーはめちゃくちゃ怒られる。

2011/06/11 03:19






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