ケロロ | ナノ


 彼の考えていることは分からない。得体のしれない者。けれど、彼からしたら自分の考えていることなんて分からないだろうし、同じく得体のしれない者だろう。その彼が、今、自分の目の前を歩いている。目の前と言うと少し語弊があるかもしれない。少し先を歩いている、と言うのが正しい。前から来る人をうまくかわしながら歩いているが、すれ違った人をちらりと見ては、少しだけ悲しそうな顔をした。すれ違った人は、前から歩いてくるときと同じ顔をして、彼、ゾルル兵長とすれ違ったことにも気づいていないようだった。なんて残酷なのだろう。
 兵長に追いつくために、少しだけ歩みを速めた。兵長とすれ違った人にわざと肩をぶつけて、兵長が避けなければこんな風にぶつかっていたのだ、と心の中で呟いた。すいません、なんて心にも思っていない。


「ゾルル兵長!」


 声を掛けたらゆっくりと振り返る。気配は感じていただろうに、どうして驚いた顔をしているのか。彼の表情をほとんど知らないけれど、驚いているのではないかと思った。実際のことなんてわからない。
 存在に気付いたことに驚いているなら、甘く見ないでほしい。影は薄いかもしれないけれど、アサシンである彼には好都合だろう。同じ小隊に配属されて、同じ任務をたくさんこなしているのだから、忘れるわけがない。悲しい顔をしているのを、見たくない。


「なん、だ」
「いえ、見かけたので何をしているのかと」
「べつに」
「兵長も普通に廊下歩いたりするんすね。アサシン専用の道とかあるのかと思ってたっす」
「ある、が、今日は…廊下を歩き、たかった」
「気分転換っすね!」
「そんなところ、だ」
「これから何かあります?」
「……?」
「ご飯でも、行きませんか。兵長のこと知りたいっす」
「…話をするのは、苦手だ」


 照れているのか視線を床に移動させた。それに苦笑して、彼の手を取った。強引に人を連れて行くのは得意だ。これで何人も強引に連れ出して怒られたことがある。ゾルル兵長の手は、少し体温が低いけれど、自分たちと変わらず体温だってあるし、血も通っている。周りの人が彼に気付かないことが憎いけれど、気付かないならそれでもいい、彼の素晴らしさは自分たちだけがわかっていればいいと思った。
 曲がり角でぶつかったプルル看護長も巻き込んで、抗議の声は無視して食堂へと腕を引いて歩いた。


2014/05/29 01:27


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