あの子の魔法

真っ赤な髪を揺らしながらいそいそと早歩きで通り過ぎたスズを呼び止めることも無く見過ごす。
俺に気づかないくらいの用事があるのだろう、そう思うけれどなんだか胸がざわついて仕様がない。どうしたものか。
考えるよりも早く俺の足は動いていた。
口より先に手が出てしまうのが悩み事のひとつだが、足までもがいう事を聞いてくれないとなれば、精密検査をしてもらうしかなくなってくる。なんて億劫な――とぼんやり考えていたらスズの姿が消えた。
辺りをキョロキョロしていると背中にチョンと、何かが当たった。振り返って見ると真っ赤な髪。


「やぁ」
「お、おう」
「僕の後付けてた?」
「…バレてたか」
「うん。途中で追い越されたけど」


クスクス笑いながら言うスズに俺は恥ずかしくなって、照れ隠しに頬を掻いた。
俺はなんて間抜けなのだろう。掻いた頬が熱を持っているのがわかる。
そんな俺を見たスズが、ニコリと笑いかけたせいで俺の心臓が大きく跳ねた。
俺はこの笑顔に弱いのだ。


「ヒョロの家に行こうと思ってたんだ」


告げられた言葉にハッとして、今日の予定だとか、明日の予定だとか、会う約束をしていたかを必死になって頭を働かせて思い出す。
この後は何も予定が無いし、明日は午後から練習だ。
スズとは、約束をしていない。


「いきなりで迷惑だったかな?」
「いや、全然!とくに予定無いしな!」


通行人がいるにも関わらず、大きな声を出してしまった。
スズはまたクスクス笑って、「じゃあ行こうか」と言って俺の腕に自分の腕を絡めて歩き出した。
どこに行くかはわからないけれど、とりあえずスズに付いて行くことにする。
今日はなんていい日なんだ!




2013/05/19 05:29

title by



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -