風鈴
ちりん、と飾られた風鈴が音を立てて鳴った。扇風機も何もない、この家は暑すぎる。縁側に寝転がりながらそう考えていた。暑いのなら、他の家に行けばいい、というもう一人の自分の声など無視をして。
自分のすぐ近くに寝転がる黒は、何も言わない。機械の身体は暑かろうに。水でもぶっかけてやろうかと思ったけれど、また喧嘩になりそうだからやめた。
「なぁキッド」
問いかけに答えたのは、黒い塊ではなく風鈴で。ちりん、と鳴った音がとても儚くて、胸のあたりがきゅっと掴まれたようだった。
ああ、苦しいなあ。
風が吹いて風鈴が鳴って、雨の匂いが漂ってくる。一雨降りそうだ。
「キッド、雨が降りそうだ。そっちにいると濡れるぜ」
縁側のふちの方に寝転がる黒は、俺の話を聞いているのかいないのか。
仕方がないから、近付いて引っ張ってやろうとした瞬間、ぬばたまの瞳が自分を映す。
この瞳が、苦手なのだ。
「起きてたのか」
「ぴーぴーうるせぇ奴だぜ。人の眠りを邪魔しやがって」
「返事くらいしてほしいものだな」
「いつまで独り言をいうか、聞いてたんだ」
「悪趣味だな」
襖に凭れかかって遠い空を見上げた。雨雲が近づいてきて、地面を濡らす。まるで、自分の胸の中みたいだ。
風鈴が、ちりんと鳴った。
2015/08/16 10:40