まるで逃避行のように
まるで逃避行のように ずきりずきりと痛む右手を擦りながら砂浜に寝転がる。 横にはアヒルを抱えた馬鹿がいる。 痛む右手の原因は、コイツだ。 無理やりに手首を引っ張り、海まで連れて来られた。 やめろと言っても聞かずに引っ張ったお陰で、腕を捻ってしまったようで、それに悪びれもせずどかりと隣に腰掛けたアキラの頭を思い切り殴った。 ターバンが少しずれただけで、切れ長の目で睨まれてから、また右手を掴まれた。 「おい、」 「お前は五月蠅いな」 「何も言ってないだろ!」 「目で訴えているではないか。今すぐ消えろと」 「分かってるなら消えろよ」 「年上に対してその口のきき方はなんだ」 アキラの右手が俺の右手を引っ張り、距離が近付いた。 至近距離で見てもコイツの顔は整っていて、少しだけ腹が立った後、ハッとした。 こんなところを誰かに見られたら、面倒くさいことになる。 ホモだのなんだのと言われて噂になってしまう。 近付いてくる顔に気づくのが遅れてしまい、避けることができなかった。 (キス、された) 「…はぁああああ!?」 「うるさい」 「おま、な、なに、は、」 「好きな奴に口づけるのは当たり前だろう」 「こん、こんなところで…」 「ここじゃなかったらいいのか」 「そんなわけ、」 言うが早いかアキラは俺の腕を掴んだまま、また歩き出した。 行先は分からない。 片手にアヒル、片手に俺の手。 じわりじわりと伝わってくる体温が高すぎて、触れているところが発火しそうだ。 (熱い、) 「好き」と言われたのを思い出すのは、アキラの家に着いて、押し倒されてから。 ------------------- title by 休憩 2012/05/07 13:24 |