いろいろ | ナノ


Je t’aime pour toujours.

 もくもくとした雲を見ながら、なんだか美味しそうなマシュマロみたいだ、と思っていたら、名前を呼ばれた。寝転がっている体を起こす気にもなれず、そのまま空を見上げていたら顔を俺に向けて、陰になるように立つ花京院の姿。
 逆光で表情が全く読めなくて、目を細める。用があって名前を呼んだのだろうと思ったのに、花京院は俺の顔をジッと見つめたまま何も話さない。仕方ない、年上の俺が声を掛けてやろう、と口を開きかけた瞬間、花京院はその長い足を折り曲げて、しゃがんだ。
 さっきより近い距離にいる花京院の表情は、なんとなく、穏やかに見えた。何を考えているのだろう。俺には、全くわからない。
 手を伸ばして、垂れ下がった髪に触れる。強張った表情になったけれど、そんなの知ったことではない。
 ふわふわとウェーブがかかっている髪は柔らかくて、食べたらどんな味がするのだろう、なんてわけのわからないことを考えていた。

「ポルナレフ」
「ん〜」
「なに、してるんだ」
「揺れてるものを触りたくなるのは本能なんだぜ」
「よくわからないな」

 折り曲げた足と、胸の間に挟んでいた両手を伸ばし、俺の頬を摘んだ。ふ、と口角があがるのが分かって、あー、こいつもこんな表情するんだな、と呑気に考えていた。
 俺はなんだかとても眠くて、そのまま瞼を閉じてしまった。薄れゆく意識の中、花京院が名前を呼んだ気がした。名前を呼んだあと、小さな声で、囁かれた言葉を、俺はしっかりと聞き取っていた。
 高鳴る胸の音が、花京院に聞こえやしないか、気が気じゃなかったけれど、囁かれた言葉のあと、何か、言葉が紡がれることはなかった。


 あの日の出来事を、昨日の様に思い出すのだ。
 マシュマロだと思った雲も、輝いていた青い空も、流れていた空気の匂いや音も、景色も鮮明なのに、フランス語で紡がれた、愛の言葉を囁いた少年だけが、色をなくしてしまっている。
 あの時、話をしていれば、何か変わっていたのだろうか。変わっていたとして、今、隣に彼がいたのだろうか。
 いつだって、失ってから気づくのだ。
 後悔ばかりが募り、自己嫌悪に陥ってばかりで、もう、自分の気持ちを伝える術がどこにもない。なんど言葉にしたって、笑いかけてくれるあの少年はもう、どこにもいない。
 さよならさえ、言えないまま。




2015/07/18 09:05



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