真っ白い病室に負けないほどの肌の白さ。か細く痩せたからだを背を起こしたベッドにもたれさせて、今日もういは読書をしている。余程集中していたのか暫くして俺がベッド横の椅子に座っていたのに気づいて、「声掛けてくれた良かったのに」と薄く優しく笑った。

「いや、あまりにも夢中になってたから」
「今ね、遠くの国の不思議な物語を読んでるの」
「そうか」

 ういは読んでいたページに押花の栞を挟んで本を閉じた。
 余命数ヶ月のういがここまで穏やかになれるまで、自分を受け入れられるまでどれほどの時間を要しただろう。薬の副作用に耐えながら、毎日泣いて、たまに暴れてしまって。耐えに耐えて、俺の腕の中で「死ぬのが怖いよ」と震えていたういはもうどこにもいない。死を受けいれた人間はこんなにも穏やかでいられるものかと。俺の気持ちの方が追いついていないくらいだ。

「ういの好きなケーキ買ってきた。食べるか?」

 「食べられるかなぁ」とクスクス笑っているういを横目に備え付けの小さな冷蔵庫から割と小さめなショートケーキを取り出す。近くの棚から皿とフォークを出してういの目の前のテーブルへと置いた。すると、ういは俺の腕へと手を伸ばして軽く触れ、「あーんして欲しい」と可愛くおねだりをしてきた。こんな小さな事でも頼られるのは嬉しいがそれを悟られたくなくて、「しょうがねぇな」と平静を装いながら上に乗っていた大きくて真っ赤ないちごへとフォークを伸ばすと今のういから発せられる最大限の大きな声で「あー!」と叫んだ。「どうした?」とフォークの動きを止めて、ういを見ればムスッとした顔をしている。

「私、上のいちごは最後に食べる派なの」
「そうだったな、悪い」

 ういの頭を撫でて、すぐにスポンジの先の方へフォークを入れれば、ういは目を輝かせながら口を開けてた。フォークを口に入れれば、目が三日月へと変わる。

「美味いか?」
「うん。美味しい」

 口の中で甘さを楽しむように味わっているのか目を閉じているうい。また、スポンジへとフォークを入れようとした時、ういの表情が曇ってしまった。

「獄さん、ごめんなさい」

 何がごめんなさいかわからない俺は様子を伺うようにういと向き合う事しか出来なくて。ういは続いて気まずそうに口を開く。

「もう食べられないかな……。でもね、いちごは食べたいの。ちょっとだけでいいから」
「わかった」

 ういに気を使っては欲しくないのだ。ケーキだって少しでも食べてくれればという想いで買ってきたのだ。一口食べられただけでももう充分だというのに。
 ういの望んだどおりいちごの先をフォークで切って、ういの口へと運べばういの目から涙が伝ってきてしまった。

「うい」
「美味しいね」

 胸の内から込み上げるものを言葉にできなくて、ゆっくりとういを抱きしめた。人並以下の体温を抱えて、救ってあげられない自分の無力さに心の内で舌打ちをする事しか出来ない自分が不甲斐なくて。唯一出来るキスをういの唇へと落とした。


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