「景吾くん」

 そう言って最上階のスイートルームで俺を視界に捉えるなり、高いヒールでこちらに駆けてくる彼女。可愛いのだが、

「ゆきさん、危ないので走らないでください」
「だって、早く景吾くんに会いたくて」

 そう耳を赤くして恥じらいながらも素直に思いを伝えてくれるういさんは本当に誰よりも可愛くて。

「そんな事言われたら我慢できないですよ」

 腕を引いてすぐ隣のキングサイズのベッドへと押し倒す。余裕がないまま必死にういさんの口を塞ぐように噛みつけば、首に腕が回ってくる。楽しそうに俺のキスを受けるういさんはどこか余裕で。そんな所にまだまだ俺は青いのだと思わされてしまう。けれど、そんな姿を安心して見せられるのもういさんで。
 ういさんが許嫁で良かったと心の底から思う。きっと彼女でなければ拒否をしていただろう。
 先ほどのパーティー会場でのういさんの姿なんて想像出来ないほど、俺のキスで呼吸を乱す彼女がとても可愛くて。


「いつもお世話になっています。いえ、……」

 遠くから聞こえる彼女が挨拶回りをしている声。会場に遅めに着いた俺もういさんとは別々に挨拶へと回っていく。

「景吾さん」

 ういさんは社交の場では俺のことをさん付けで呼ぶ。いかにも名家のお嬢様で場をしっかりと弁えているところがまた。

「ういさん、すみません。遅くなりました」
「大丈夫よ」
「今日部屋取ってあるので」

 二人してパーティー会場を背に、ういさんに鍵を渡せば「こんな所で……」と頬を赤らめながらも満更では無い反応。

「お二人さんはいつも仲がよろしいですねぇ〜」

 後ろから大企業の社長から冷やかしの声が飛んでくる。すかさずういさんを庇うように前に出るも「そうなんです。本当に景吾さんには良くしていただいてます」と後ろにいるういさんが先に口を出した。ういさんの悪気のない愛想の良い笑顔に返す言葉が無くなったのかその人は苦笑いをしながら別の所へと行ってしまった。

「ういさん、わざわざあんなの相手にしなくても」
「でも、無言っていうのもねぇ」

 すでに今起きたことは何も無かったかのように、スイーツコーナーへと吸い寄せられるように歩いて行ってしまう。その後ろ姿にどうしたらういさんの様に強くいられるのかと。


「景吾くん?」

 少し動きを止めた俺を不思議に思ったのか首を傾げながら俺を見るういさんがそこにいた。

「俺はいつういさんに勝てるんですかね」
「え?」

 的を得ない質問に更にういさんを困らせてしまう。困らせたいわけでもないけど、つい出てしまった弱音。

「ういさんと同い年だったら、俺が年上だったらってあらゆる場面で考えてしまうので」

 俺の言葉を聞いてくすぐったく笑ったういさんは、何の躊躇いもなく、「景吾くんはかっこいい男の人だよ。景吾くんといると年下なのはういの方ねってみんなから言われるもの」と言った。ういさんが周りにそう言われているのは知らなくて。その言葉だけで嬉しくなってしまう俺は案外単純でやっぱり子どもだと思ってしまうのだ。


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