私の前では、跡部景吾が生徒会室で大きな薔薇の花束を抱えている。今日は彼の誕生日なのだ。抱えている花束は別に誕生日プレゼントではない。それは彼自身が自分で準備をしたもの。そう、彼はこれから好きな人に告白をしに行くのだ。

「変じゃないか?」
「今時さ、薔薇の花束って無しだと思うけど」

 抱えている花束を眺めて彼は「でももう準備しちまったから、それは変更できねぇ」と言った。違う、ただ悔しいのだ。私だって跡部の事が好きなのに、なぜこんな応援をする位置にいてしまうのか。わかってる。彼の好きな人は、薔薇の花束で喜べる純粋な可愛らしいお嬢様で跡部にとってもお似合いなのを知っているからだ。そんなものにトキメキを覚えられない私は跡部とは不釣り合いだから。

「早く行ってきなよ。ほんとに欲しい誕生日プレゼントは自分で掴み取りに行くんでしょ」
「そうだが。……上杉、今日は一段と機嫌が悪いな」
「そう? いつも通りよ」
「なら、いいんだが。……そろそろ時間だな。行ってくる」
「振られたらちゃんと慰めてあげるわよ。花束は私の家に飾ってあげる」
「ありがとな」

 綺麗な笑みを見せた跡部は生徒会室を後にしていく。よく考えたら花束を抱えて校内を歩いている方が違和感なのでは? もうその声も彼には届かないのだけれど。まぁ、彼ほどの人間であれば、花束を抱えていても誕生日プレゼントかくらいに思われるだろう。
 告白の結果は聞くまでもなくOKなのを知っている私は、鞄を握りしめて静かに生徒会室を出た。跡部を待っていなくていいのだから、私はもうここにいる必要はない。だって跡部の好きな人に彼は少しズレてる所もあるけどいい人よと言ったのは何を隠そう私なのだから。小柄で可愛らしい彼女はそんな跡部に惹かれ、どう告白しようか悩んでいたし。

「私からの誕生日プレゼントちゃんと受け取りなさいよ」

 廊下に響いた声はランニングをしている部活の声出しにかき消されてしまう。

「宍戸、うるさいよ……」

 目頭が熱いなんて気づきたくなくて、どこまでも強がる自分でなければ跡部の隣にいられたのだろうか。そんな事を今更考えていても仕方が無いのだけれどもね。


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