「三蔵さん?」
「悪い、起こしたか?」

 夜、眠れなくて煙草をと外へ出てきたら、隣で寝ていたういを起こしてしまったようだ。俺の何がいいのかわからないが、なぜか懐かれて、親鳥に着いていく雛のように俺の後を着いてくるうい。最初は鬱陶しかったもののこうして、ずっと一緒にいるとなると人間慣れてくるもので。

「ううん。一人ぼっちになる夢を見て怖くて目が覚めたら本当に一人で怖くなって……」

 ういも俺たちと同じ何かしらの事情を抱えた人間で、とにかく一人でいる事や人の怒鳴り声、大きな物音、いろいろとトラウマが多いようで。

「そりゃ、夢見悪いな」
「うん」

 俺の隣で三角座りをしたういは、寂しそうに下を向いて俯いてしまった。しばらく一緒にいれば落ち着くだろうと気にせずに煙草の二本目を取り出す。ほっとかれるくらいがちょうどいいと言っていたから、これくらいの距離感がいいのだろう。だから妙に懐かれるのだろうか。
 相変わらずういは俯いたままで、俺は上っていく煙を見上げる。深夜なのであたりも当然静かだ。普段騒がしい連中がいる中で、こう物音一つない空間は俺自身も落ち着くものだ。だから俺もういを側においているのだろう。
 しばらくそうしていれば、ゆっくりとだが睡魔がそこまで襲ってきていた。

「俺はそろそろ戻るがどうする?」
「私も戻る」

 二人して立ち上がれば、ういがそっと俺の服の裾を掴んでくる。その様子になんとも言えない気持ちがわき上がってきた。

「行くか」

 そう言って、掴んできた手の上から手を重ねれば次はその手を握られる。自分から、なんて柄ではないがそうしたい時だってあるのだ。俺はういの手を優しく握り返して、宿へと戻った。


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